トリチウムの海洋放出...政府「科学的に問題ない」、IAEA「影響は『無視できるほど』」 世論も「軟化」し、「強硬に反対しにくい雰囲気」に
もっとも、政府と全漁連のやり取りは微妙だ。首相との会談後、記者に囲まれた坂本会長は「約束は破られてはいないけれど、果されてもいない」と語っている。
トリチウムは既存の原発からも排出されていて、福島の年間の排出予定量は中国や韓国などの原発よりも少なく、政府は「科学的に問題はない」と繰り返している。
国際原子力機関(IAEA)も、福島の放出計画について、2023年7月、人や環境への影響は「無視できるほど」として、「国際基準と合致する」との報告書をまとめ、日本政府に事実上の「お墨付き」を与えている。
日本国内の世論も軟化してきたのは確かだ。
朝日新聞の世論調査で2021年1月は「放出反対」55%に対し、「賛成」は32%。22年2月は反対45%、賛成42%だったのが、政府の動きも反映し、23年になって賛成が増え、3月は反対41%対賛成51%と逆転し、以降もほぼ同様の賛否の比率になっている。
こうした風向きの変化で、「漁業団体は強硬に反対しにくい雰囲気が醸成されていった」(大手紙社会部デスク)。
特に、「廃炉を進めるため」と政府が「大義」を掲げ、「復興のためには廃炉が必要であり、廃炉を進めるために海洋放出が不可欠」という論理に、徹底抗戦するのは困難になっていたといわれる。
もちろん、世論も、政府を手放しで支持しているわけではない。
朝日新聞の調査(7月17日朝刊)では放出に賛成51%、反対40%だが、女性に限ると賛成37%、反対49%と反対が多い。朝日の調査(8月21日朝刊)で風評被害を防ぐ政府の取り組みについて、「十分ではない」が75%と、「十分だ」の14%を大幅に上回った。毎日新聞の調査(7月24日朝刊)では、政府や東電の説明については「不十分」が53%で、「十分」の24%の2倍以上にのぼった。
実際に風評被害の補償といっても、どのように被害を認定し、補償していくのか、実務的に考えると極めて難しい。