焦点だった「関係者の理解なしに『海洋放出』しない」文書約束 政府、風評被害対策に万全を期す...800億円の基金を活用
ところが一方、漁業者は2011年の原発事故後、風評被害に長く苦しめられ、ようやく立ち直ってきたことから、処理水放出で再び風評被害が激しくなることを懸念して猛反対だった。
政府と東電は2015年、福島県漁業協同組合連合会(福島県漁連)に対して「関係者の理解なしに、いかなる処分(海洋放出)もしない」と文書で約束した。
この約束が守られるのかが最大の焦点だった。
岸田首相は放出決定に先立つ8月20日、福島第1原発を訪れてALPSや放出用のトンネルなどを視察。現地で面会した東電の小早川智明社長には「当社が担う重い責任を自覚し、社長である私が先頭に立ち、覚悟を持って対応に当たる」と表明させた。
翌21日には全国漁業協同組合連合会(全漁連)の坂本雅信会長や福島、宮城など被災5県の漁連幹部らと首相官邸で会い、首相は「漁業者が安心して、なりわいを継続できるよう、必要な対策を今後数十年の長期にわたろうとも、全責任をもって対応する」と述べ、安全性の確保や風評対策に万全を期す考えを強調した。
これに対して坂本会長は、放出反対では変わらないとの立場を確認しつつ、「科学的な安全性への理解は私ども事業者の間でも深まってきた」と述べた。
政府は、この発言を受け、「関係者の一定の理解を得たと判断した」(西村康稔経済産業相)として、放出決定に踏み切った。実際の風評対策として政府が800億円の基金を設け、水産品の値崩れが起きないように買い支え、損害が生じれば東電が賠償するなど、対応に万全を期すとしている。