米中対立に巻き込まれ、中国の報復が半導体に広がるのが怖い
一方、水産業への打撃は小さくないが、輸出停止が1年間続いてもGDP(国内総生産)の押し下げ効果は0.17%にすぎない。今後、日本経済全体に大きな影響を与える可能性があるのは、中国の対日貿易規制措置の対象が他の分野へと広がる場合だと指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「中国による日本の水産物輸入停止の経済的打撃は大きくないが、貿易規制のエスカレーションに注意」によると、米国は、中国に対する先端半導体に関する輸出規制を昨年(2022年)10月に始めた。
米国からの求めに応じて、日本やオランダは先端半導体製造装置の輸出規制で米国に足並みを揃えた。その報復措置として、中国政府は8月1日から半導体の材料となるレアメタル(希少金属)などの関連製品の輸出規制を始めている。
さらに、米バイデン政権は8月9日、対中投資規制の大統領令を発表した。米国の資金が中国の軍事力強化に利用されることを避けるための措置で、日本を含めた他の先進国にも同様の措置を要請する方針だ。
木内氏は、日本が米中対立に巻き込まれて、米国に同調する危険性をこう指摘する。
「日本が投資規制でも米国に同調する場合、中国は日本も意識した輸出規制の報復措置を検討する可能性があるだろう。そして、中国政府はレアアース(希土類)や特定の鉱物の輸出規制で報復する可能性がある。
その場合には、日本経済にとっては大きな打撃となることは避けられない。このようなリスクも踏まえると、政府は、処理水放出を受けた中国との関係悪化だけでなく、対中投資輸出規制で米国との連携のあり方についても慎重に検討していく必要があるだろう」
(福田和郎)