「影の銀行」デフォルト連鎖も、不動産不況の火に油
不動産不況と並行して、「シャドーバンキング」(影の銀行)の問題が深刻化していると指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「深まる中国シャドーバンキング(影の銀行)の問題」(8月18日付)のなかで、銀行ではない金融機関「シャドーバンキング」(影の銀行)である中国の信託大手「中融国際信託」が組成した高利回りの信託商品数十本のデフォルト(債務不履行)発生に注目した。
「中融」は中国で9番目に大きな信託会社で、デフォルトは8月11日に発覚した。同社の発表によると、少なくとも30商品の支払いが滞っている。
また、データプロバイダーのユーストラストによると、「中融」には今年満期を迎える総額395億元(約7900億円)の高利回り商品がまだ270本あることから、今後支払いが滞る商品は急速に増えていく可能性が高い。事態はかなり深刻だ。
というのは、不動産セクターが、銀行借り入れが厳しくなったため、信託商品からの資金調達にシフトしており、不動産不況の火に油を注ぐかたちになるからだ。木内氏はこう指摘する。
「政府が不動産デベロッパーへの銀行融資を規制し始めてからは、不動産デベロッパーは規制の緩い信託からの資金調達を増やした可能性がある。一種の規制逃れである。
信託商品に富裕者や金融機関のお金が集まった背景には、『暗黙の保証』という問題がある。多くの信託会社は地方政府や国有企業が株主になっており、一部の融資は地域のインフラ計画を支えている。そのため、信託商品には政府による『暗黙の保証』が付いている、とみなされることが多い。
そのため、信託商品の投資家は、高い運用利回りを享受する一方、投資リスクを十分に把握していないことが考えられる。このことが、信託商品の価格を歪めている面があるだろう。また信託商品の価格が元本割れをし、またデフォルトを起こした際には、それが社会問題化しやすい背景にある」
木内氏は、こう結んでいる。
「景気減速、不動産市場の調整をきっかけに信託商品の価格が大幅に低下すれば、それに投資する金融機関では損失が発生し、金融システムを不安定化させる可能性がある。
また、信託商品の解約が急増し、それに応じきれない信託会社の破綻が相次げば、信託会社からの資金調達に依存する企業の経営が一気に行き詰まり、実体経済に大きな打撃となる事態も生じ得よう」