国有企業を優遇、民営企業を圧迫する政府の愚策が背景に
こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。
最悪、中国発世界金融危機の引き金になる可能性があると指摘するのは、大和総研主席研究員の齋藤尚登氏だ。
齋藤氏はリポート「中国:最悪ケースは金融危機のトリガーに 『不動産不況』が深刻化、軟着陸の鍵は健全な民営デベロッパーの救済」(8月22日付)のなかで、住宅需要が2021年をピークに下降の一途をたどり、不動産不況が深刻化しているグラフ【図表1】を示しながら、こう述べる。
「最悪のケースとして、景気失速下で住宅価格が暴落し、価格低迷が長期化するようなことがあれば、銀行の不良債権は激増し、中国発の金融危機が発生してもおかしくはない。今後の『不動産不況』の行方には細心の注意を払う必要がある」
齋藤氏によると、2022年以降、中国は「不動産不況」に苦しんでいるが、事態を悪化させたきっかけは、2020年8月の政府による不動産デベロッパーへの規制強化だった。財務状況への監視が強化され、負債状況に応じて資金調達を制限する「3つのレッドライン」(中国版総量規制)が設定された。
財務の健全性の高いデベロッパーを中心に優勝劣敗が進むと期待されたのだが、実際はそうならなかった。中国内外で上場するデベロッパー55社のうち「3つレッドライン」に抵触して、債務不履行(デフォルト)に陥った企業は32社に達した。だが、財務の健全性とデフォルトの発生状況とはあまり関係はなかった。
むしろ、特徴的なのは、デフォルトを起こした32社のうち、民営デベロッパーが実に29社を数えた一方で、国有デベロッパーはわずか3社にとどまったことだ。この過程で恒大集団も一気に経営危機に陥ったわけだが、齋藤氏はこう指摘する。
「中国版総量規制は、デベロッパーの財務の健全性向上が目的ではなく、民営デベロッパーの淘汰が目的とされる所以である。ここにも『国進民退』(政策の恩恵が国有企業に集中し、民営企業は蚊帳の外に置かれる)問題が発露している。多くの民営デベロッパーで資金繰りが悪化し、工事中断問題が社会問題化したのである」
「さらに、この問題には負の連鎖がある。中国では、建設中に物件を購入し、住宅ローンの返済が始まるケースが多いが、引き渡し不能リスクを懸念する市民は、民営デベロッパーの建設というだけで購入をためらう。
本来なら財務的に健全なデベロッパーであっても、容易にデフォルト組に転落していく。大手デベロッパーの碧桂園は、この典型だ。碧桂園は2021年度決算では3つのレッドラインのうち1つしか抵触していない比較的健全なデベロッパーに位置付けられていたが、500億元(約1兆円)前後の赤字になった模様であり、資金繰りの悪化が表面化した」
そこで齋藤氏は、負の連鎖の「不動産不況」からくる中国発金融危機をソフトランディングさせるためにとして、こう訴えている。
「少なくとも2020年8月の中国版総量規制の導入時に、財務の健全性が高いと判断されたものの、その後の銀行の貸し渋りなどでデフォルトを余儀なくされた民営デベロッパーについては、金融面でのサポートをしっかりとするべきであろう。
それが不動産購入者に浸透すれば、少なくとも民営デベロッパー=倒産リスクが高い、という連想が断ち切られ、過去2年分の『実需』のリベンジ購入が期待さ入れることになろう」