「あの爆買い復活は無理?」中国団体客解禁に、過度な期待は禁物...エコノミストが指摘「中国人の購買欲、かなり低い」「日本人が旅行できなくなる」

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「あの爆買いの復活なるか!」

   中国政府は、コロナ対策で2020年1月から団体旅行を禁止していたが、2023年から段階的に再開、8月10日に日本や韓国など78か国への団体旅行を解禁した。

   これまでも個人旅行は認められてきたが、これで一気に中国人旅行客が増えることになり、百貨店や家電量販店など小売業界の期待は高まる。しかし、エコノミストの間では、過度な期待は禁物という冷めた見方が広がっている。

  • 中国の国旗(写真はイメージ)
    中国の国旗(写真はイメージ)
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中国政府は、旅行解禁で低迷する消費の拡大を狙っている

   報道をまとめると、8月18日夜、3年半ぶりに解禁された団体旅行の第1陣となる旅客機が中国南部の広州から関西空港に到着した。到着した中国人旅行客は「大阪、京都、神戸を回ります。牛肉や寿司などおいしい日本食を楽しみたい」。

   中国政府が団体旅行の解禁対象として3月までの60か国に加え、日本や米国、韓国を含む78か国を新たに加えた背景には、景気が悪化する経済状況が関係しているとみられる。

   中国共産党が7月に開いた政治局会議では、投資促進や国際航空便の増加を打ち出したが、旅行解禁によって低迷する消費の拡大を狙っている、というわけだ。

   現在、足元では円安・元高が続いており、日本への旅行の追い風になっている。中国本土の旅行者から見ると、韓国ウォンやタイバーツより日本は割安感がある。日本への旅行者が増えれば、日本経済にとっても大きなプラスになるはずだが......。

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外国人観光客に人気の東京浅草(写真はイメージ)

   エコノミストはどう見ているのだろうか。

   中国人の団体客が来るのはいいが、反面、宿泊料が高騰して、日本人の国内旅行客には計画を断念する人も現れるだろうと懸念するのは第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。

   熊野氏はリポート「中国人が帰ってくる!~訪日団体旅行の解禁~」(8月10日付)のなかで、

「(中国人の団体旅行が解禁されることで)インバウンド需要は、年間2.0兆円程度の増加が見込まれる。その効果のメインは、小売業の売上増加である」

   と、いちおう歓迎の姿勢を見せている。

   熊野氏によると、現在、外国人観光客が増えて、インバウンド消費全体は、コロナ前の2019年のマイナス8.4%のところまで戻してきている。しかし、調べてみると、中国人以外の訪日客は、ホテル代、飲食費、交通費にお金を使い、円安にもかかわらず、買い物代は2019年比で減っていた。

   もしも、訪日中国人が戻ってくれば、プラス8700億円の買い物代が増えると試算できるという。これは、百貨店、家電量販店、ドラッグストアの売上増加に結びついていくに違いない。

中国人ラッシュでホテル代高騰、日本人旅行客が泊まれなくなる

   しかし、熊野氏によると、別の心配ごとが起こってくる。ホテルがいっぱいになるということだ。熊野氏は東京都区部のホテル代高騰のグラフ【図表1】を示しながら、こう指摘する。

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(図表1)東京都区部の宿泊料の価格推移(第一生命経済研究所の作成)
「日本人にとって、ホテル・旅館の予約が取りにくくなっている。観光庁『宿泊旅行統計』によれば、2023年6月の稼働率は、シティホテルが67.8%、ビジネスホテルが 68.6%まで上がり、これはコロナ前に近づく状況だ。地域別には、東京都のビジネスホテルは79.0%、京都は71.7%と他地域よりも稼働率が高くなっている。
こうした混雑は、次第に宿泊料の高騰につながっている。総務省『消費者物価(東京都区部)』では、7月中旬の宿泊料が、ボトムだった2022年11月に比べて1.5倍以上になっている」

   ホテル・旅館側には、コロナ禍で人員抑制をしたため、来客増に対応し切れなくなっており、人員を増やしたくても集まらないという問題がある。このため、現在、ホテルスタッフの人件費が昨年より、2.7%~7.3%増えている。

   熊野氏はこう結んでいる。

「高騰する人件費を賄うために、宿泊料の値上げはやむを得ないという事情がある。今後、訪日中国人が急増すると、宿泊費の高騰に拍車がかかることは想像に難くない。関東・関西の宿泊料が上がると、日本人の旅行客からは、予約が取れないだけではなく、高すぎて泊まれないという悲鳴が聞こえてきそうだ。
(日本人)旅行客は、円安のせいで海外旅行は高すぎるから断念し、国内旅行に振り替えている人も多い。それなのに、国内旅行費用が増えれば、国内旅行でさえも断念せざるを得なくなる。こうした円安効果は、少し行き過ぎていると考えるのは筆者(=熊野氏)だけであろうか」

爆買いが期待薄の理由...経済悪化、消費意欲低迷、政府の締め付け

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また、「爆買い」してくれるだろうか(写真はイメージ)

   一方、中国経済の悪化から中国人の消費意欲が大いに下がっており、特に「爆買い」の期待は禁物だと指摘するのは、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミスト宮嶋貴之氏だ。

   宮嶋氏はリポート「中国人の訪日団体旅行ビザ再開による効果に、過度の期待は禁物」(8月16日付)のなかで、中国人観光客に過度に期待できない理由を3つあげている。

   第1に、アフターコロナで回復しつつある航空旅行客の統計から中国人の旅行先の推移を見ると、まだ近場に行く人が多いことだ。具体的には、香港、マカオ、タイ、シンガポールなどが先行しており、日本への回復は遅れている。理由として、コロナ禍前より日中関係が緊張していることがあげられる。

   つまり、かつてのように多くの中国人が訪れることは、あまり期待できないようだ。

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(図表2)中国の消費者態度と貯蓄意欲(ソニーファイナンシャルグループの作成)

   第2に、GDP(国内総生産)成長率の減速、若年層の過去最悪の失業率など、現在、中国経済は悪化しつつあり、中国の消費マインドはかつてないほど冷え切っている。【図表2】は中国の消費者態度指数と貯蓄意欲を示したグラフだが、これを見ても消費意欲(四角い赤の点線)が急激にダウンしているのがわかる。

   だから、訪日中国人が2019年の水準で買い物をすることは考えにくい。

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(図表3)中国株と訪日中国人の買い物代(ソニーファイナンシャルグループの作成)

   第3に、「爆買いブーム」が起こった2015年と現在では大きな違いがある。【図表3】は、中国株と訪日中国人の1人当たりの買い物代を示したグラフだが、両者には相関関係があることがわかる。2015年の「爆買いブーム」時には、上海総合指数は大きく上昇していた。

   株高により資産効果によって、富裕層を中心に日本でのショッピングが大流行した。当時は「代講」(訪日客や日本在住者が、日本製品を日本で購入して中国のSNSなどで転売すること)が、爆買いの火付け役となった。その後、中国政府の取り締まりが強化されていることも、当時と現在の大きな違いだ。

   というわけで、宮嶋氏はこう結んでいる。

「2015年時のような爆買いブームが再現する可能性は低そうだ。現状、訪日中国人客の団体旅行ビザ再開への期待は沸騰しているように見える。確かに日本経済、日本の観光にとってプラスとなろうが、その効果の大きさについては少し冷静にみておく必要があるだろう。
むしろ筆者(=宮嶋氏)が懸念しているのは、中国人客のさらなる増加が一部観光地域のオーバーツーリズム(観光公害)の問題を深刻化させることだ」

(福田和郎)

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