長い目で見た「脱炭素社会」実現、補助金の延長は慎重に
ただし、長い目で見た「脱炭素社会」実現のためには、ガソリン補助金の延長は慎重であるべきだ、と主張するのは野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。
木内氏はリポート「ガソリン価格は8月末に196円、9月末に199円と推定:それでもガソリン補助金延長の議論は慎重に」(8月17日付)のなかで、ガソリン価格(全国平均、レギュラー)は8月末に1リットル196円程度、9月末に199円程度になると予測する。
このため、政府部内には、ガソリン価格が史上最高値を超える見通しとなったことを受け、9月末のガソリン補助金制度廃止の方針を見直し、延長を検討する動きも出ている。しかし、木内氏はこう指摘する。
「ガソリン補助金制度には3つの大きな問題点があり、長期化するほどその問題は大きくなる。第1は、市場価格を歪めてしまうこと、第2に、脱炭素社会実現の政策方針と矛盾してしまうこと、第3に、財政負担が膨らむことだ。
ガソリン補助金制度で既に4兆円規模の財政資金が投入されたとみられる。延長されれば財政負担はさらに膨らむ。その財源は税金や国債発行によって賄われており、結局は国民の負担なのである。本当の意味では、国民は助かっていない。
他方、現在の物価高対策は、電気・ガス料金の補助金制度も含めて、価格上昇によって特に打撃を受ける低所得層や零細企業に絞った、セーフティネットの施策へと転換していくことが望ましいのではないか。例えば、所得制限を付けた給付金制度などが考えられる」
もう1つ、木内氏が指摘するのは、今後、国際経済がさらに悪化すれば、原油価格が下がるではないか、という展望だ。
「中国経済の悪化傾向が目立ってきており、これが今後原油価格の低下につながる可能性も考えられる。また、世界経済の減速懸念が、リスク回避での円買い、円高につながる可能性も考えられる。
そうなれば、原油価格下落と円高の双方の効果によって、年末にかけて国内ガソリン価格が一転して低下傾向を辿る可能性も十分に考えられる。
ガソリン補助金制度を現状のまま延長するか否かについては、効果と副作用を冷静に比較し、またこの先の国際経済・金融情勢、ガソリン価格の推移を見極めたうえで、慎重に検討を進めるべきだ」
(福田和郎)