消費者や顧客の立場を利用して、不当な要求を強要する、カスタマーハラスメント(カスハラ)。2022年2月、厚労省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表するなど、企業における対策の重要度は高まっている。そんなカスハラの実態とは――。
企業の危機管理ソリューションなどを提供するエス・ピー・ネットワーク(東京都杉並区)は2023年8月17日に「カスタマーハラスメント(カスハラ)」についての実態調査の結果を発表した。
企業でクレーム対応を行った経験のある会社員1030人を対象とした今回の調査によると、直近1年間でカスハラを1回以上受けたことがある人は64.5%に上った。
特に、卸売・小売業(百貨店・スーパー・コンビニ)では回答者の半数以上が「執拗な(しつこい)言動」(55.6%)、「威圧的な言動(大声を出すなど)」(55.6%)を受けたといい、交通インフラ業でも「執拗な(しつこい)言動」(50.0%)、「威圧的な言動(大声を出すなど)」(55.0%)の被害を受けている。
法人企業からの無理な値引き交渉や威圧的態度を受けた報告も挙がっており、経営者にはカスハラに対する組織的なマニュアルの作成が求められている。
「この1年で16回以上カスハラを受けた」は3.1%...サービス業で際立つ
今回の調査では、カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客等からの職場環境が害されるレベルの不当要求のこと。自社側に落ち度がないにもかかわらず金品等を要求する、または落ち度があっても暴行や脅迫など非常識な言動で要求を迫るといった不当要求が、高圧的かつ長期間にわたって繰り返されたり、暴行によって受傷したりする言動を指すものとした。
調査によると、はじめに、直近1年で1回以上カスハラを受けた人は「1回~5回」が「53.1%」、「6回~10回」が「7.1%」、「11回~15回」が1.2%、「16回以上」が3.1%となり、「1年以内にカスハラを受けてことがある」人は「64.5%」に上った。「1年以内に遭遇したことはない」が「35.5%」なので、倍近い人がカスハラの被害を受けているようだ。
続いて、業種別の傾向では、「11~15回」受けたという回答の「44.4%」にサービス業が上った。製造業は「33.3%」だった。一方で、「16回以上」受けたとの回答については、うちサービス業が「33.3%」で、金融業・保険業が「16.7%」となった。
では、どのような人がカスハラを行っているのか、属性について調査している。それによると、男性が「81.1%」、女性が「18.9%」。年代別では40歳代が「22.3%」、50歳代が「40.6%」、60歳代が「17.2%」で、40歳代から60歳代までをあわせて「80.1%」という結果になった。
業界ごとのカスハラの現状を調べてみると、卸売・小売業(百貨店・スーパー・コンビニ)では回答者の半数以上が「執拗な(しつこい)言動」(55.6%)、「威圧的な言動(大声を出すなど)」(55.6%)、「責任がないにも関わらず商品の交換や金品を要求」(51.9%)などのカスハラを受けたことがあると回答した。
また、交通インフラ業(鉄道・飛行機・バス・タクシー)では回答者の半数以上が「執拗な(しつこい)言動」(50.0%)、「威圧的な言動(大声を出すなど)」(55.0%)のカスハラを受けたことがあると回答した。
法人顧客からのカスハラに...「値引きの強要」16.5%、「サービスの強要」15.5%、「威圧的な態度」15.2%
つぎに、法人顧客によるカスハラの現状はどうか。調査によると、法人顧客からカスハラを「受けたことがない」と回答した人は「50.8%」だった。つまり、「被害を受けたことがある」人と、半々の状況のようだ。
法人顧客からの主なカスハラの内容では、「値引きの強要」が「16.5%」、「サービスの強要」が「15.5%」、「威圧的な言動」が「15.2%」という結果だった。
同社は、「カスハラは今や一般消費者だけでなく法人も加害者となるものである。法人取引においては取引を解除されないために不当な要求に応じざるを得ないケースも存在し、取引先からのカスハラ対策も視野に入れる必要がある」としている。
続いての質問では、不当要求やカスハラが従業員に与える影響について聞いたところ、「従業員のメンタル低下・モチベーション低下」(49.2%)、「対応の手間に伴う本来の仕事への圧迫」(28.3%)、「従業員の離職」(20.9%)という結果が得られた。
また、企業側のカスハラへの対策についても質問した。それによると、対策の方針を決めているかには、「何も策定していない」が「28.2%」。ついで、「接客対応の基本方針はあるがクレーム全般の方針は無い」が「12.6%」、「クレーム全般の方針はあるがカスハラ対策の方針はない」が「14.5%」となった。あわせてカスハラ対策の方針を「55.3%」が策定していない状況が分かる。
報道も増え、2022年2月には厚生労働省からも「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が公表され、カスハラに対する問題意識は高まっているものの、対策方針やマニュアルの策定、研修などはまだまだという状況が、今回の調査で明らかになった。
エス・ピー・ネットワークでは以下のように指摘している。
「調査においても約7割の回答者が自社のカスハラ対策に課題を感じていた。しかし、方針やマニュアルの策定、研修などをはじめとする対応はまだまだ進んではいないことが、今回の調査で明らかになった」
「クレーム対応に関しては往々にして対応スキルの向上に注力されがちだが、不当要求やカスハラ対策は、対応スキルの向上だけでは足りず、組織的な体制整備が必須である」
「経営者はカスハラから従業員を守るという強い決意を持ち、具体的かつ抜本的なカスハラ対策を推進していく必要がある」
なお、この調査は2023年7月14日から16日までの間、全国の20代から60代の男女で、対象職種は営業・販売、一般事務、専門職、総務・人事、カスタマーサポート、顧客管理・品質管理、技術・設計、情報処理システム、生産・製造等とした。対象条件は企業でクレーム対応を行った経験のある会社員1030人だった。