円安加速1ドル=146円突破!政府・日銀は為替介入に動く? エコノミストが指摘「今は、米国独り勝ちのドル全面高」「介入を急がない4つの国内事情」

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   円安加速が止まらない。2023年8月17日の東京外国為替市場で円相場は、一時1ドル=146円56円まで下落した。

   政府と日銀が昨秋、24年ぶりに円買いドル売りの為替介入に踏み切った日の最安値を突破した。円安が物価高に拍車をかける懸念が高まるなか、政府・日銀は再び介入に踏み切るのか。

   市場では介入の警戒を強め、その後、一部に円を買い戻す動きがみられたが、市場と政府・日銀の緊張は高まる一方だ。エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 日本経済はどうなる?(写真はイメージ)
    日本経済はどうなる?(写真はイメージ)
  • 日本経済はどうなる?(写真はイメージ)

昨年の介入時に比べ、切迫感に乏しい鈴木財務大臣

   報道をまとめると、8月17日未明(日本時間)、FRB(米連邦準備制度理事会)が、金融政策を決めた7月開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨を公表したのが円安加速のきっかけだ。

   会合参加者の大半が、インフレ上昇リスクが大きいとして、さらなる追加利上げが必要と言及していたことが明らかになった。これを受け、日米の金利差が拡大するとの見方から、米長期金利が上昇。金利が高いドルを買い、円を売る動きが広がった。

   財務省と日本銀行は、1ドル=145円90銭台まで下落した昨年9月25日、円買いドル売りの為替介入に動いた。今回、その水準を突破したわけだが、財務省は今のところ昨秋ほどの切迫感を示していない。

   鈴木俊一財務相は、1ドル=145円半ばまで下落した8月15日、会見で「高い緊張感を持って注視している。行き過ぎた動きには適切な対応をとる」とコメントした。しかし、昨秋の「明らかに急激な変動で、大変に憂慮している」という発言に比べると、トーンダウンしたニュアンスだ。

kaisha_20230818172738.jpg
財務省本館

   こうした事態をエコノミスとはどう見ているのか。

   ヤフーニュースコメント欄では、時事通信社解説委員の窪園博俊記者が、

「政府・日銀は昨年秋、145円台後半でドル売り・円買い介入を行っており、足元のドル円はその水準を突破したことになります。今のところ、昨年に比べて円安のペースが緩慢であるほか、特定水準を防衛する意図はないため、すぐにドル売り・介入が入る可能性は小さいとみられます。ただ、さらに円安が進み、その動きが加速すると、介入の可能性が高まると予想されます」

   と、今後の円安進行次第では、介入もありうるとの見方を示した。

米国経済独り勝ちによる、「ドルの全面高」が円安の主因

kaisha_20230818172814.jpg
日本と米国(写真は両国国旗のイメージ)

   一方、同じくヤフーニュースコメント欄で、第一生命経済研究所主席エコノミストの藤代宏一氏は、

「昨年政府・日銀が為替介入に踏み切った水準を超えて円安が進行しています。ただし、私を含めて市場関係者の中で為替介入があると予想する人はさほど多くありません。円安の進行ペースが(昨年に比べて)緩やかであるほか、原油価格が落ち着くなかで、輸入物価が下落基調にあることなどがその理由です。
ちなみに、8月17日発表の7月貿易統計によると、原油などを含む鉱物性燃料の輸入金額は前年比36%と大幅に落ち込んでいます」

   と、介入の可能性は低いと指摘した。

kaisha_20230818172842.jpg
再び円安ドル高に(写真はイメージ)

   また、日本経済新聞オンライン版(8月17日付)「円、1ドル146円台に下落 昨秋の介入水準下回る」という記事に付くThink欄の「ひとくち解説コーナー」でも、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者が、

「円安というよりドル高。原動力は米景気の上振れ観測の高まりにあります。アトランタ連銀のGDP(国内総生産)足元予測によれば、7~9月期の実質成長率は前期比年率で5.8%の見通しに。7月の住宅着工や鉱工業生産を受けた上方修正です。対照的なのは中国で、不動産バブルの崩壊から、景気の失速は鮮明に。世界経済のなかで米国の独り勝ちが鮮明になるなか、投資マネーが米国に引き寄せられているのです」

   と、今回の円安は、米国経済の強さから来る「ドル高」に主因があると強調。そして、

「かくてドルは主要通貨に対して全面高に。ドル・インデックスは103台です。為替市場の焦点が米景気とFRBの金融政策にある以上、日本側の事情で円相場を解説しても、その説明は空回りするばかりでしょう」

   と、政府・日銀が動いても円安抑制になりにくい事情を説明した。

為替介入を急がない、「悪い円安論」がやわらいだ4つの理由

kaisha_20230818172858.png
植田和男日本銀行総裁(日本銀行YouTubeチャンネルより)

   昨年の為替介入時に比べ、現在は経済状況が好転し、円安への懸念がやわらいでいるため、為替介入を急ぐ公算は小さい、と指摘するのは三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏だ。

   市川氏はリポート「一時145円台を回復したドル円について為替介入の可能性を探る」(8月14日付)のなかで、2022年9月の為替介入時と現在(2023年7月)のマクロ経済の違いを示す【図表】を紹介している。

kaisha_20230818172930.png
(図表)為替介入時の2022年9月と現在、マクロ環境の変化(三井住友DSアセットマネジメントの作成)

   これを見ると、2022年9月の日経平均株価が2万5937円なのに対し、現在の日経平均株価は3万3172円と、2022年9月より7000円以上株高になっている。

   訪日外国人も現在は2022年9月の10倍以上だ。輸入物価指数(前年同月比)も現在はマイナス14%と下がっているが、2022年9月当時はプラス48%と、急激な物価高に苦しんでいた【再び図表】。

   つまり、2022年9月時点は「悪い円安」論が日本中を席巻していたわけだ。こうしたことから、市川氏はこう結んでいる。

「例えば、現時点では、国内の株高基調、インバウンド(訪日外国人)需要の回復、貿易赤字の縮小、輸入物価の落ち着きが確認されており【図表】、円安に対する当局の懸念は、2022年9月当時と比べ、いくらか和らいでいると思われます」
「そのため、ドル円の『水準』が144円台や145円台であっても、ドル高・円安の進行『ペース』が、行き過ぎと判断されない限り、当局が為替介入を急ぐ公算は小さいとみています」

(福田和郎)

姉妹サイト