海外で稼いでも、国内に持ち込まなければ、外国為替への効果は弱まる
経常黒字の拡大は、一般的に円高につながるはずだ。なぜなら、海外で稼いだお金を日本国内に持ってくるためには、ドルなど現地通貨を売って、円を買うからだ。
ただ、海外で稼いでも、国内に持ち込まず、海外で再投資する額が多ければ、円に換える必要はなく、外国為替への効果は弱まる。
実際、第1次所得収支のうち、「証券投資収益の黒字の大半を占める海外の債券の利子は、海外で再投資されることが多く、日本には還流しない」(市場関係者)という。
円安是正という点でも、経常黒字が拡大し、特に貿易黒字が目に見えて復活しないと、円高方向への反転は簡単ではなさそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)
◆(注)2つの貿易収支
貿易収支は、国際収支統計の中の貿易収支と、貿易統計の貿易統計(いずれも財務相所管)の2種類ある。両統計は、計上する範囲や時期などの基準が異なるため、数字に違いがある。財務省ホームページによると、大きく、「輸入建値」と「計上範囲・時点」の2つが異なる。
輸入建値の違い
貿易統計として公表される輸入金額は、我が国通関地点における貨物価格(CIF:Cost, Insurance and Freight、貨物代金に加えて、仕向地までの運賃・保険料が含まれた価格)を集計。他方、国際収支統計においては、物の取引と、サービスの取引とは区別して計上することを原則としているため、貿易収支には、輸出国における船積み価格(FOB:Free On Board、本船渡し価格)を計上し、運賃・保険料等の諸経費には、サービス収支に計上している。
計上範囲・時点の違い
貿易統計は、我が国の税関における貨物の通関という観点に立ち、物の輸出入を物理的に捕らえ、税関を通過した時点(関税境界)を計上する時期・範囲としている。国際収支統計は、税関を通過したかどうかに関わらず、居住者と非居住者の間で所有権が移転した貨物を計上している。
2023年6月の貿易収支は、記事本文のように、国際収支統計上は、3287億円の黒字(前年同月は1兆1048億円の赤字)と、2021年10月以来、20か月ぶりの黒字だ。一方、貿易統計上は430億円の黒字で、こちらは2021年7月以来、23か月ぶりの黒字だった。