最低賃金引き上げへ対応...企業の7割、「賃上げ」仕方ない 「賃上げしないと求人できなくなる」

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   2023年度の最低賃金の目安が前年度より41円上昇、全国平均で時給1002円となることが決まったことを受けて、これに対応して「賃上げを行う」企業が70.6%にのぼることが、帝国データバンクの調査でわかった。2023年8月9日の発表

   今年度の最低賃金は物価高への対応などが重視され、現在の961円から41円(前年度は31円)上昇。上げ幅は過去最大で、初めて1000円を超えた。

   伸び率も4.3%(同3.3%)と高い水準になった。今後は各都道府県の地方最低賃金審議会がそれぞれの地域の実額を決めていき、10月ごろから適用がはじまる見込みとなっている。

物価高に対応、最低賃金は右肩上がり

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参考:最低賃金は右肩上がり(帝国データバンク調べ)

   調査によると、2023年度の最低賃金の引き上げを受けて、自社の対応有無を聞いたところ、なんらか「対応する」企業は83.2%と8割を超え、「対応しない」の10.4%を大きく上回った。

   具体的な対応策を聞く(複数回答)と、「もともと最低賃金よりも高いが、賃上げを行う」と答えた企業は46.5%が最も高かった。次いで「最低賃金よりも低くなるため、賃上げを行う」が25.0%で続き、最低賃金の引き上げを受けて「賃上げ」を行う企業は70.6%と、7割に達した。

   賃上げの有無にかかわらず、「従業員のスキル向上の強化」(24.0%)と「商品やサービスの値上げ」(21.3%)が2割台で並び、「人件費以外のコスト削減」(19.0%)が続いた。【図1参照】

   企業に賃上げの理由を聞いたところ、

「今まで就業している人はすでに今回の最低賃金を超えているが、新しく採用する人との差がなくなるので引き上げざるを得ず、負担が増える」(化学品製造)

と在籍中の従業員の待遇改善や、

「有能な人材へは最低賃金を大きく超える対応をしており、これからも同様の対応をする」(飲食店)

といった人材確保を目的とする声があがった。その一方で、

「最低賃金が上がっても130万円の『年収の壁』があるので、パートさんの働く時間が減るだけ」(運輸・倉庫)

と「年収の壁」問題もあがった。このほか、

「パート従業員の時給はほとんどが1000円以下なので改定されれば上げざるを得ないが、物価高・コスト高で利幅が取りにくいなか、さらなる追い討ちをかけられるようなもの」(飲食料品・飼料製造)

と、物価高を背景とした厳しい実情も聞かれた。

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図1 最低賃金の引き上げで「賃上げ」する企業は7割に達した(帝国データバンク調べ)

採用時の最も低い時給は平均1086円、最低賃金を84円上回る

   また、現時点で従業員を採用する時の最も低い時給について聞いたところ、全体平均は約 1086円となった。現状の最低賃金(961円)からは125円高く、2023年度の目安である全国平均1002円を84円上回った。【図2参照】

   帝国データバンクは、

「人手不足を背景に、雇用維持を目的として賃金を高めに設定する動きがあるようだ」

としている。

   最低賃金を業界別にみると、「不動産」「建設」「サービス」で全体を上回る一方、「小売」「運輸・倉庫」などでは下回った。企業からは

「すでにパートタイマーは1400円程度の時給に引き上げているが、今後も物価の上昇を見ながら、随時引き上げたい」(不動産)

といった声がある一方、

「現状で頑張ってくれている人の賃金を上げたいがそこまで余裕がない。賃金を上げないと求人もできなくなる」(繊維・繊維製品・服飾品小売)

といった声も聞かれた。

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図2 採用時の最も低い時給は平均「1086円」となった(帝国データバンク調べ)

懸念される「年収の壁」...働き控えで人手不足が深刻化

   調査で寄せられた企業からのコメントをみると、

「最低賃金を下回るパートさんの賃金引き上げはもちろんだが、最低賃金を上回っているパートさんとの差にも配慮しなければならない」(飲食料品卸売)
「今後のインフレ(消費者物価指数の上昇)次第では、賃金を上げないと採用ができなくなる危険性がある。半面、受注単価の上昇がともなうか不安である」(メンテナンス・警備・検査)
「扶養控除の基準が据え置きのままだと、働ける時間が減少することから、ますます人手不足の状態になる」(繊維・繊維製品・服飾品小売)
「現在は最低賃金の引き上げを見込んで、毎年4月に昇給を行っている。経営的に余裕があり引き上げ見込額を若干多めにしているが、資材やエネルギー価格の上昇により利幅が狭まっていることが、今後の悩みどころ」(輸送用機械・器具製造)
「運賃への転嫁が進まないなか、止まらない燃料費高騰に人件費アップ、来年には労働時間の削減まで課せられる。1年先の見通しが立たず業界に人が集まらない」(運輸・倉庫)
「最低賃金の引き上げは全体の所得の底上げになり良いことだと考えるが、対応できない多くの中小企業が廃業・淘汰されるのではないかと考える」(機械製造)

など、厳しい声もみられる。

   こうした状況に、帝国データバンクは、

「2023年の春季労使交渉では賃上げ率が平均3.58%と30年ぶりの高水準に達するなど、物価高などを背景に賃上げの機運は高まっている。しかし、一方で企業からは、最低賃金の上昇が新規採用に加えて、既存の従業員の賃金アップにつながり、収益を圧迫するほか、130万円の『年収の壁』が招く働き控えによる人手不足の深刻化を懸念する声がある。
こうした課題を解決するには、原材料費や光熱費に加えて人件費を適切に商品・サービス価格へ転嫁できる環境の整備や、成長分野への労働移動などを通じた企業の生産性の向上、『年収の壁』の是正に向けた制度の見直しが急がれる」

とコメントしている。

   なお、調査は2023年8月4日~7日にインターネットで実施。有効回答企業数は1040社。

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