懸念される「年収の壁」...働き控えで人手不足が深刻化
調査で寄せられた企業からのコメントをみると、
「最低賃金を下回るパートさんの賃金引き上げはもちろんだが、最低賃金を上回っているパートさんとの差にも配慮しなければならない」(飲食料品卸売)
「今後のインフレ(消費者物価指数の上昇)次第では、賃金を上げないと採用ができなくなる危険性がある。半面、受注単価の上昇がともなうか不安である」(メンテナンス・警備・検査)
「扶養控除の基準が据え置きのままだと、働ける時間が減少することから、ますます人手不足の状態になる」(繊維・繊維製品・服飾品小売)
「現在は最低賃金の引き上げを見込んで、毎年4月に昇給を行っている。経営的に余裕があり引き上げ見込額を若干多めにしているが、資材やエネルギー価格の上昇により利幅が狭まっていることが、今後の悩みどころ」(輸送用機械・器具製造)
「運賃への転嫁が進まないなか、止まらない燃料費高騰に人件費アップ、来年には労働時間の削減まで課せられる。1年先の見通しが立たず業界に人が集まらない」(運輸・倉庫)
「最低賃金の引き上げは全体の所得の底上げになり良いことだと考えるが、対応できない多くの中小企業が廃業・淘汰されるのではないかと考える」(機械製造)
など、厳しい声もみられる。
こうした状況に、帝国データバンクは、
「2023年の春季労使交渉では賃上げ率が平均3.58%と30年ぶりの高水準に達するなど、物価高などを背景に賃上げの機運は高まっている。しかし、一方で企業からは、最低賃金の上昇が新規採用に加えて、既存の従業員の賃金アップにつながり、収益を圧迫するほか、130万円の『年収の壁』が招く働き控えによる人手不足の深刻化を懸念する声がある。
こうした課題を解決するには、原材料費や光熱費に加えて人件費を適切に商品・サービス価格へ転嫁できる環境の整備や、成長分野への労働移動などを通じた企業の生産性の向上、『年収の壁』の是正に向けた制度の見直しが急がれる」
とコメントしている。
なお、調査は2023年8月4日~7日にインターネットで実施。有効回答企業数は1040社。