就職先や転職先、投資先を選ぶとき、会社の業績だけでなく従業員数や給与の増減も気になりませんか?
上場企業の財務諸表から企業の内情をさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、インターネット広告を中心とする企業グループの持株会社フリークアウト・ホールディングス(フリークアウト・HD)です。
2010年にフリークアウトを設立し、翌年に広告主が広告入札やターゲティング、掲載面などを一括管理するDSP(Demand-Side Platform)「FreakOut」をリリース。国内で初めてリアルタイム広告枠取引を行いました。
2014年6月に東証マザーズ(現グロース市場)に上場。2017年1月に持株会社体制に移行し、2018年には伊藤忠商事と資本業務提携契約を締結しています。
2023年8月10日、大手YouTuber事務所UUUMの公開買付(TOB)を実施する予定であることが、適時開示で公表されました。TOBの完了後、UUUMは上場が維持されたまま、フリークアウト・HDの連結子会社になる見込みです。
赤字続きからようやく回復も、利益率は低迷
それではまず、フリークアウト・HDの近年の業績の推移を見てみましょう。
フリークアウト・HDの売上高は順調に伸びています。2018年9月期は前期比22.7%増、翌期以降も同47.2%増、同14.6%増、同18.6%増と続いています。2022年9月期は微減していますが、これはこの期から「収益認識に関する会計基準」等を適用しているためで、実質的には過去最高売上と見られます。
一方で利益を生み出す力は弱く、営業損益は2018年9月期と2019年9月期が赤字。当期純損益は2019年9月期が35億円の赤字、2020年9月期も6.7億円の赤字となっています。
2019年9月期は従来DSPとしての取扱高が最も大きかったメディアとの取引が終了し、EBITDAベースでの利益が前期比で大きく減少。一部海外子会社や国内採用管理システムの運営会社について、未償却ののれんを全額減損した影響などもあり大幅赤字となっています。
なお、「取扱高が最も大きかったメディア」がどこか明記されていませんが、2017年9月期の有価証券報告書には主要な顧客としてサイバーエージェント(売上高16億6010万円)とセプテーニ(同12億7887万円)の名前があります。
2021年9月期と2022年9月期は営業黒字および当期純利益の黒字を回復しましたが、営業利益はそれぞれ3.4%、4.6%と回復基調にはあるものの低水準が続いています。
2023年9月期の業績予想は、売上高が前期比20.8%増の350億円、営業利益が同20.2%増の16億円、営業利益率は4.6%。EBITDAが同24.7%増の30億円、当期純利益が同486.2%の80億円となる見込みです。
成長する動画広告市場をねらうフリークアウト・HD
フリークアウト・HDのセグメントは、「広告・マーケティング事業」と、ITベンチャー投資の「投資事業」、国内外のグループにおける経営管理機能等を提供する「その他事業」の3つで構成されています。
売上高のほぼすべてを「広告・マーケティング事業」があげており、2022年9月期の構成比は海外事業が約8割を占め、国内事業が約2割でした。
同EBITDAは、黒字部分の約6割を海外事業が生み出し、国内事業が3割弱、IRIS(持分法)が1割強。投資事業は赤字でした。
決算説明会資料の「業績予想の考え方」によると、2022年9月期に好調だった北米市場は、景気後退に加えてプライバシー規制強化の影響でマクロでは減速が見込まれるとしながら、新規メディアの獲得などを通じて、売上ベースで20%程度の成長を見込むとしています。
一方、国内市場は、ロシア・ウクライナ情勢の影響による広告予算削減で不安定ではあるものの、「動画・Connected TV領域の成長拡大(大手広告主の予算投下)」「GPの拡販」「IRISの好業績の通年寄与」によりEBITDAベースで2桁%成長を見込むとしています。
ここで注目されるのが、成長を見込める領域がすべて動画に関わる事業であることです。
「Connected TV」とはインターネットに接続されたテレビ端末のこと。「GP」はYouTube広告配信の効果最大化とブランドセーフティを目的とした広告の動画コンテクスチュアルターゲティング配信サービスです。
「IRIS」は、日本最大のタクシーサイネージメディア「Tokyo Prime」の提供やゴルフカートサイネージメディア「Golfcart Vision」の共同提供を行う、GOとフリークアウト・HDとの合弁会社です。
ショート動画へのシフトで、収益が見込めないUUUM
一方、TOBの対象となるUUUMですが、2023年5月期の売上高は前期比2.1%減の230億8700万円、営業損益は1億9500万円の赤字、当期純損益は10億5300万円の赤字となっています。
減収の理由について、決算短信は「動画コンテンツにおいて長尺の再生数比率が下降傾向、一方で収益化が黎明期であるショート動画の再生回数は大きく伸長しているものの、アドセンス収益としては現時点で不安定であること等を受けて、アドセンス売上(注:YouTubeからの収益)が減少」「また、広告出稿抑制及びマーケティングにおける案件の多様化を原因として、マーケティング事業が苦戦した」ためとしています。
減益の理由については、「P2Cブランドの棚卸評価損を売上原価に計上」したためとしています。P2Cとは「Person to Consumer」の略で、棚卸評価損とはインフルエンサーマーケティングの不調による在庫の劣化と考えられます。
UUUMは「2023年5月期通期決算説明および今後の事業計画や成長可能性について」(2023年7月14日)の中で、「専属クリエイター数を減少させ、アドセンス以外の売上に注力」し、「インフルエンサー・ギャラクシー事業」を強化する方針を示しています。
インフルエンサー・ギャラクシー事業とは、クリエイターのマネジメントにとどまらない「ビジネスの共創事業」を指します。
直近の事業としては、人気YouTuber・HIKAKINのオリジナルブランド「HIKAKIN PREMIUM」の名の下に、全国のセブン-イレブン店舗で発売された人気カップラーメン「みそきん」です。
「動画強化」「マーケティングへのシフト」で利害が一致
このように見ると、YouTubeのショート動画へのシフトによりアドセンス売上が減少したUUUMが、アドセンス以外の収益を得る方法としてYouTuberとの共創事業を進める中で、赤字を出したのを機に、動画広告の強化を図りたいフリークアウト・HDの傘下に入った、といえそうです。
事業環境の変化を踏まえ、回復に時間がかかると判断し、事業構造を大胆に変えようと判断するスピードの速さに驚かされます。
今後UUUMは、YouTuberクリエイターのマネジメント事業から、インフルエンサーとともにビジネスを共創するマーケティング事業にシフトしていくことが予想されます。また、GPが持つYouTube向けコンテクスチュアルターゲティングを活用することで、UUUMのYouTuberの収益性が改善するかもしれません。
フリークアウト・HDとしても、動画広告とともに付加価値の高いマーケティング事業の強化が求められています。そのためUUUMとのシナジー創出が可能と判断し、両社の利害が一致したものと見られます。
なお、フリークアウト・HDの株価は、TOB発表前の8月10日(木)の終値は1230円を付けていましたが、連休明けの8月14日(月)には982円まで急落、直近の8月16日(水)は936円となっています。(こたつ経営研究所)