グーグル、アマゾン、フェイスブック(現メタ)、アップル、マイクロソフトといった米テック企業では、昨年から大規模なリストラが行われている。果たして「冬の時代」に突入したのだろうか。
本書「GAFAM+テスラ 帝国の存亡」(翔泳社)は、それぞれの社に焦点を当てて現状を分析し、さらにテスラについても解説している。衰退の道をたどろうとしているのか、それとも新たな強固な帝国を築き上げようとしているのか。テック業界の未来が見えてくる。
「GAFAM+テスラ 帝国の存亡」(田中道昭著)翔泳社
著者の田中道昭さんは、立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。専門は企業戦略、マーケティング戦略。三菱東京UFJ銀行、シティバンクなどを経て現職。著書に「GAFA×BATH」、「アマゾン銀行が誕生する日」などがある。
多くのテック企業はコロナ禍、リモートワークの影響で「コロナ特需」により売上を伸ばした。ところが、2023年にウイズコロナに移行し、その反動とも呼べる「コロナブーメラン」となって返ってきた。
GAFAMが軒並みレイオフを実施し、減益に。コロナ特需によって、多くのテック企業が過剰な設備投資を行い、従業員を増やしたが、その反動が表れたという。
本書では、GAFAMとテスラについて、それぞれ章を設け、各社がどの分野でどのように取り組んでいるか、その戦略を詳しく見ている。
チャットGPTが浸食しようとするグーグル検索
最初に登場するのが、グーグルだ。
検索サービスで知られるが、売上の8割近くを広告収入に依存している。検索エンジンで検索を行うと、検索結果とともに広告が表示される。この広告こそが、グーグルの大きな収入源のひとつになっている。
ところが、チャットGPTの出現によってこの分野が激変するかもしれない。
マイクロソフトが提供している検索サービスのビングは、23年2月にチャットGPTをビングに盛り込み、「新しいビング」としてサービスを開始した。これにより、グーグルの独擅場が犯されようとしている。
グーグルも23年3月、会話型AIサービス「バード」を一般公開。生成AIのプラットフォームを握ろうと、マイクロソフトとグーグルの覇権争いが始まったという。
広告依存のグーグルに対し、マイクロソフトはクラウドとオフィス製品という収益源を持つので、グーグルが劣勢にあることは明白、と著者の田中さんは見ている。既存サービスと生成AIをどう組み合わせてくるのかがポイントになりそうだ。
アマゾンにも大きな変化が...
アマゾンに大きな変化が起こりつつあるという。 21年から22年にかけて、アマゾンの業績は数値やグラフに見られるほどは良くはなく、ビジネスの柱であるAWSというクラウドサービスの売上が伸び悩んでいる、と指摘。
22年の年間売上高が過去最高の5139億8300万ドルだったのに対し、純利益は約27億ドルの損失となった。コロナ禍の需要増に対応するため物流施設を急拡大したが、その後需要が減速し、過剰キャパシティーとなったのだ。
だが、アマゾンは小売企業ではなく、AIの分野でも最先端を走る企業だと、田中さんは考えている。AWSとAIを組み合わせることで、新たな収益を生み出そうとしているという。
さらに、「ブルーオリジン」という宇宙企業を創設。衛星を利用してドローンによる配送システムを構築することも想定しているそうだ。
「アマゾン×ブルーオリジン×AWS×AI......これらがそろっているのは、アマゾンの大きな強みなのです」
メタバースは5兆ドル市場に
GAFAMの中でも、最も先行きが不安視されているのがメタ(旧フェイスブック)だ。
フェイスブックの売上のほとんどが広告収入で、22年10~12月決算では、純利益が前年同期比55%減と、5四半期連続の減益となった。
事業の中心をメタバースの開発と提供に移すことになり、不安視されているが、田中さんは「すでに世界ではメタバース、仮想現実が思っている以上に身近になってきている」と見ている。
Z世代(1990年代後半から2012年頃に生まれた世代)の若者たちは、「ロブロックス」というオンラインのゲーミング・プラットフォームで遊び、アメリカでは「メタバースの本命」と言われているそうだ。
メタバースの市場規模は2030年には5兆ドルに達するという予測もあり、多くの企業が参入しつつある。
「アップルのAR(拡張現実)・VR(仮想現実)端末発売で本当のメタバース元年になる」
田中さんはそう見ている。アップルが開発しているのはMR(複合現実)ヘッドセットで、視線と手の動きで操作可能で約3000ドルと予想している。5兆ドルという膨大なメタバース市場の覇権を握るのは、アップルになる可能性も高いという。
アップルはほかにも、ヘルスケア分野に力を入れている。
アップルウォッチはもはや「医療機器」とも呼べる水準にまで達しており、ヘルスケア市場の新たなプラットフォームになるだろうと予想している。
アップルはAIに乗り出さないのか? 「マイクロソフトとグーグルの熾烈な争いを眺めている段階」だが、いずれ投入してくるはず、と見ている。
GAFAMはどこへ向かうのか?
マイクロソフトは、GAFAMでは5番目の企業と見なされている。だが、売上では4番目で純利益ではアップルに次ぐ2番目だ。
とはいえ、内実はそれほどいいものではないという。景気の減速で、パソコンやゲームへの支出が減少したため、ウインドウズ製品やオフィス製品に大きな影響が出ている。
前述したように、マイクロソフトはAIを搭載した「新しいビング」を提供し、グーグルに独占されている検索を取り戻そうとしている。さらに、マイクロソフトのさまざまなオンラインアプリにAI機能を搭載する予定だそうだ。
GAFAM以外で取り上げているテスラだが、EV(電気自動車)メーカーとしてだけではなく、最先端テクノロジーを駆使してクリーンエネルギーのエコシステムを作り出す企業、テクノロジー企業としても評価している。
また、テスラ車は単なる電気自動車ではなく、データを生み出す道具となっており、すでにビッグデータを扱い、ソフトウェアを作成・配布する、テック企業となっているとも。
このほかに、GAFAMのライバルとして、流通大手のウォルマートや中国の電気機器メーカーTCL、中国テック企業のバイドゥ、アリババ、テンセントなどを挙げ、その動向にも触れている。
最後にGAFAMはどこへ向かうのか? 世界最大の人口ボリューム層、Z世代に注目している。地球環境問題に関心が高く、彼らを取り込むサービスを提供できるかどうかがカギになりそうだ。(渡辺淳悦)
「GAFAM+テスラ 帝国の存亡」
田中道昭著
翔泳社
1760円(税込)