SUBARU(スバル)が2030年に電気自動車(EV)を年間60万台販売し、世界販売120万台に占める割合を50%にするという高い目標を発表した。
2026年末までにEVのSUV(スポーツ用多目的車)を4車種、28年末までにさらに4車種を発売し、EVのラインアップを8車種にするという。いったいスバルから、どんなEVが生まれるのだろうか。
世界販売が年間100万台規模のスバル 2030年に、約2割アップの120万台販売も高い目標
「SUBARUという会社の舵をバッテリーEVに切り、経営資源をバッテリーEVに集中します」
2023年8月2日、スバルの大崎篤社長が記者会見で明らかにした新経営体制の方針は、スバルが国際競争で生き残るため、電気自動車メーカーに生まれ変わることを明確に宣言した。
ここで言う電気自動車とは、プラグインハイブリッドカー(PHEV)などを含まないバッテリーEV(BEV)のことだ。
現在、世界販売が年間約100万台規模のスバルにとって、120万台の世界販売は約2割アップの高い目標だが、その半数をBEVにするという。
これまでスバルは2030年時点でハイブリッドカーとBEVを合わせ、電動車を40%以上にする計画だった。
今回、目標自体を上方修正し、BEVだけで50%というのは、日本の中堅メーカーとしてはかなり野心的だ。
現在、スバルのBEVは「ソルテラ」のみ 2030年までに8車種に増やす...これは、全車種でBEV化ということ?
それは大手メーカーとの比較でわかる。
たとえば、トヨタ自動車は2026年までに10車種のBEVを投入し、年間150万台販売する計画を2023年4月に発表している。
トヨタは2030年までに年間350万台のBEVを販売すると発表していたが、「全方位戦略のトヨタはBEVに後ろ向き」とのイメージを払しょくするため計画を前倒しした。
トヨタの年間の世界販売は約1000万台なので、年間150万台なら15%、同350万台でも35%にとどまる。スバルとトヨタでは規模が異なるので単純比較はできないが、BEVで世界販売の50%を目指すというスバルの目標は日本メーカーとしては高い。
現在、スバルが販売するBEVは、トヨタと共同開発した「ソルテラ」しかない。これを2030年までに8車種に増やすということは、スバルの規模から考えると、全車種をBEV化するに等しい。
2030年の世界販売120万台のうち、半数の60万台がBEVになったとして、残る60万台は水平対向エンジンを積んだガソリン車か、同エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドカーとなる。
「スバルらしい走りのよいBEV」は可能なのか?
現在、スバルが販売するソルテラは愛知県のトヨタの工場で生産しているが、自社開発のBEVは群馬県のスバルの工場で自社生産することになる。
当面はガソリン車を生産する既設工場でガソリン車とともに生産するが、群馬県内にBEVの専用工場を建設中で、2028年以降は年間40万台の生産が可能という。さらにスバルは今回、米国でもBEVを生産することを明らかにした。
スバルは「電動化への過渡期は自動車の環境規制やマーケットの動向を注視しながら、日米工場の生産体制再編を活用して柔軟に対応し、ある程度方向性が見えてきた段階で一気に拡張していく」という。
これが何を意味するかといえば、スバルがBEVに舵を切り、経営資源をBEVに集中する以上、失うものがあるということだ。それは、スバルの魅力であり、安定性の高い走りを生み出す水平対向エンジンに他ならない。
スバルはラインアップの少ない中堅メーカーだが、他社がまねできない水平対向エンジンを核にレガシィ、インプレッサ、フォレスター、レヴォーグ、BRZなど個性的なクルマをそろえ、人気を得てきた。
大崎社長は記者会見で「BEVになってもスバルらしさを出していきたい。スバルらしい走りのよいBEVにしたい」と述べたが、果たして可能なのか。
BEVへの方針転換で、存在意義が問われるのはスバルのような個性的な中堅メーカーに違いない。(ジャーナリスト 岩城諒)