「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。
今回の「CASE34」では、「人事評価を聞く前に、振り返りしろなんて!モラハラでしょ?!」と訴えるベテラン部下...への対応に悩むケースを取り上げます。
ミスや失敗を振り返る際の留意点
<「人事評価を聞く前に、振り返りしろなんて!モラハラでしょ?!」と訴えるベテラン部下...どう諭す?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE34(前編)】(前川孝雄)>の続きです。
部下のミスへの対応については、本連載のCASE29(「ルールどおりに仕事したので、私は悪くありません」お客様からのクレームに鈍感な若手社員...どう諭す?)でも触れましたが、大事な観点なので再度詳しく解説します。
上司が気をつけたいのは、部下の仕事上の成功や失敗への評価と、本人の人格そのものへの評価を切り分けて考えることです。
部下が自分の受けた注意を、人格が否定されたり、主義主張を拒否されたと受け止めてしまうと、必要以上に傷つきます。そこで上司は、振り返りでのミスや失敗の指摘や叱責に際しては、あくまで仕事の結果に対するものであって、本人の人格への批判でないことを明言しましょう。
仕事の内容に対する厳しい注意喚起は、お客様への失礼があったり、コンプライアンス違反やセキュリティ管理上の問題につながるなど、自社の信用失墜を避けるために行うもの。真剣に受け止めてほしいと伝えることです。
人間ですから常に完璧は望めず、ミスはつきもの。とはいえ、キャリア形成のためには同じミスを二度三度と繰り返さないことが重要です。だからこそ、原因究明が不可欠なことを伝えましょう。
本人に原因を見出させる
上司は部下のミスや失敗の原因に気づいていても、先に指摘するのは控えましょう。
忍耐が必要です。本人がなかなか気づきにくいようなら、客観的な事実、お客様の様子、上司や先輩の意図や思いなど、本人が察知しやすくなるような質問を投げかけます。
本人自身が原因に気づき、自ら言葉にできるよう、根気よく待つことです。失敗の原因を本人自身が自覚することが、失敗を糧にする最良の育成方法だからです。
強みや持ち味を認め、前向きに背中を押す
また、結果の出来・不出来とは別に、部下の行動の中に持ち味やよい動きが見えたなら、積極的に認め背中を押しましょう。
「〇〇の仕事では大いに健闘し、目標も達成できた。大きく成長が見られた部分なので、これからも引き続き力を入れて取り組んでほしい」
「〇〇様からのクレームは、当初は判断ミスでご迷惑をかけたが、その後のあなたの謝罪と真摯な対処がお客様に好感を持っていただけた。反省点には学びながらも、その姿勢はあなたの強み。これからも大事にしてほしい」
こうしたアドバイスで、本人の目を未来に向けさせましょう。
今後のキャリアについて深く話し合う...キャリアの主人公は部下自身
上司は、3か月や6か月ごとの育成面談など節目の時期に、本人が自分でイメージしたキャリアを順調に歩めているか、聴いてみましょう。
まずまず順調なら、さほど心配はいりません。次期も引き続き、日々のOJTと週次や月次のPDCAサイクルを通して、フォローを続けていきましょう。
一方、自分のキャリアに不安や違和感があるようなら、本人の気持ちをじっくりと聴く必要があります。不安な内容は何で、それはなぜか。自分としてはどうすればよいと考えているか。何かアドバイスを望むことがあるか。気持ちに寄り添い、伴走していきましょう。
本人が仕事の目的と業績目標との関係を見失っているなら、そこをつなぐにはどう考えればよいか。ヒントを投げかけます。本人がやりたいことと、組織への貢献との間に乖離があるならば、両立の方法はないかを問いかけ、一緒に考えていきます。
上司が答えを教えるのではなく、上司の思いやヒントとして提供しつつ、部下の内省を促します。自ら考えさせ、答えを出すように導くことが基本です。
育成面談で十分気をつけたいことは、日々の仕事やスキルのOJTとは異なり、本人のキャリアに関する支援だという点です。上司の価値観や意見を強く押し付けてはいけません。キャリアの主人公は、あくまでも部下自身だからです。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。