日産とルノーの資本関係、「不平等解消」ようやく決着 本格的なEV化対応へ、賽は投げられた 中国市場での生産・販売の抜本的てこ入れ急務

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   日産自動車と仏自動車大手ルノーの資本関係見直しが、ようやく決着した。

   日産にとって「不平等条約」といわれる状態を改め、相互に15%ずつ出資するかたちになる。「対等」の関係で、世界の自動車業界を覆う電気自動車(EV)化への対応を急ぐ。

  • 日産とルノーの資本関係、「対等化」ようやく決着
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双方15%ずつ持ち合う対等な関係に...ルノー、日産株28%分を仏信託会社に移し、議決権を「中立化」

   日産は2023年7月26日、ルノーとの資本関係を見直す最終契約を結んだと発表した。

   ルノーの日産に対する出資比率を43%から引き下げて相互に15%ずつ出資するとともに、ルノーが設立するEV新会社「アンペア」に日産が最大で6億ユーロ(約930億円)を出資するのが柱だ。

   ルノーは保有日産株を当面は市場で放出せず、28%分を仏信託会社に移し、議決権を「中立化」させる。将来、売却する際は競合他社などに日産株が渡るのを防ぐため、日産を売却先の優先候補とすることも契約に盛り込んだ。

   このほか、インドや中南米といった新興国や欧州などで新事業を進めていくことでも改めて合意した。

「過去に(ルノーとの)アライアンスはいろいろとあったが、120%成長していける環境を整備しなくてはいけないと考えた」

   最終決着を受け、日産の内田誠社長はこうコメントした。

最終契約の遅れの背景に...日産の取締役人事を巡る混乱、アンペア出資の条件交渉など

   これまでの経緯にも触れておきたい。日産は経営危機に陥った1999年、ルノーに資本支援を求め、ルノーが約6000億円を投じて日産株の約37%を取得し、カルロス・ゴーン元会長を最高執行責任者として日産に送り込んだ。

   その後、ルノーが日産の43%、日産がルノーの15%を、それぞれ持ち合うかたちになって現在に至る。ただ、経営危機から復活した日産が、近年は売上高、販売台数でルノーを上回っており、特にフランスの法律による制限で、日産が持つルノー株には議決権がないことから、日産には「不平等条約」との不満が強かった。

   J-CAST 会社ウォッチも、「日産とルノー、資本関係見直し...日産が求める『不平等解消』へ、協議進んだ「2つの要因」と「今後の交渉ポイント」(2022年10月28日付、)、「日産とルノー、いびつな『不平等』ようやく解消...仏政府も支持 熾烈なEV化競争の渦中、勝ち残り容易でなく」(2023年2月14日付)などで報じてきたように、両社は2022年から交渉を加速。23年2月に大筋の合意に達していた。

   2月の合意から約5か月、最終契約が想定よりも遅れたのは、日産の取締役人事を巡る混乱やアンペア出資を巡る条件交渉などが背景にある。

   日産は5月12日にルノー出身のアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)の退任を発表(6月27日の株主総会で退任)した。だが、これに絡み、内田氏がグプタ氏を「監視している」などとする内部告発文書が発覚した。

   ことの背景には、日産の知的財産をルノーがどれだけ使えるようにするかという問題があったらしい。日産経営陣の中で、ルノー側への知的財産の「流出」を懸念する声が根強く、最終合意が遅れた一因とされる。

   アンペアへの出資についても、日産内には極力抑えたいとの消極論が強く、合意に時間を要した。結局、2月の合意で「最大15%」という数字が最終的に「最大6億ユーロ」に変更され、決着した。

   アンペアの時価総額は60~70億ユーロ(1兆円)規模になるともいわれ、出資比率は2月想定の15%より下がる可能性がある。

中国と米国でのEV化の出遅れ、挽回へ 北米での収益が堅調なうちに、中国事業の改革を

   経営の自由度が増す日産にとって、世界販売の3分の2を占める中国と米国でいかに戦うか。とりわけ両市場では、急速に進むEV化で出遅れを挽回できるかが課題になる。

   中国市場は、2023年3月期の販売台数が前期比24.3%減の104万5000台、市場占有率は前年から1.6ポイント下がって4.0%。2023年4~6月期も販売が前年比で46%も減少し、厳しい状況にある。

   北米市場も、2023年3月期は販売台数が前期比13.5%減の102万3000台と苦戦している。だが、中身をみると、ゴーン時代の台数至上主義による安売りで低下したブランドイメージの回復がようやく浸透してきて、営業利益率は22年3月期に7.6%と過去最高を更新している。

   全社の純利益は、23年3月期が前期比3%増の2219億円、23年4~6月期は前年同期比で約2.2倍の1054億円と、足元は好調だ。

   だが、米国市場でもEVシフトが進んでいる。米ミシシッピ州の工場で26年からEV4車種の生産を順次始めるが、車載電池の調達先の確保など課題をいくつも抱えている。

   一方、急速なEVシフトが進む中国市場では、生産・販売の抜本的なてこ入れが急務で、「北米の収益が堅調なうちに、中国事業の改革に取り組む必要がある」(アナリスト)との指摘が出ている。

日産とルノーの協力が最重要 カギは、全固体電池のハード面&自動運転などのソフト面

   EV化への対応では、ルノーとの協力が欠かせない。

   日産の純利益(23年3月期)は、トヨタ自動車の10分の1以下で、研究開発費も日産は年間5000億円規模にとどまり、1兆~3兆円を投資するトヨタや独フォルクスワーゲンなどに水をあけられている。

   そこで、出資などでもめたとはいえ、アンペアを軸にしたルノーとの協業が、企業規模、すなわち研究開発などへの投資余力の観点からも重要になる。「資本関係がすっきりしたことで、ルノーとの協力はやりやすくなる」(日産関係者)と期待されている。

   具体的に、日産が技術的に一定の力を持つ次世代の全固体電池の開発などハードに加え、自動運転を中心にしたソフトウエアの開発も今後の競争力を左右する。アンペアはソフト開発の舞台でもある。

   日産は今秋、新たな中期経営計画をまとめる予定だ。そこで、どのような戦略を示すかが当面の注目点だ。(ジャーナリスト 済田経夫)

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