損害保険業界が不祥事に揺れている。
中古車販売大手、ビッグモーターによる保険金不正請求問題では当初、損保各社は「被害者」とみられてきたが、損害保険ジャパンなどがビッグモーターに多数の出向者を派遣していたことが発覚し、雲行きが怪しくなっている。
加えて、企業向け保険のカルテル疑惑が浮上し、「トップの首が飛びかねない」と、損保業界は戦々恐々となっている。
ビッグモーター問題以上の衝撃に...金融庁、損保大手4社に報告命令 公取委、独占禁止法違反の疑いで調査
ビッグモーター問題は、事故を起こした自動車保険契約者にビッグモーターの整備工場を紹介する見返りに、有力な損保代理店の一面を持つビッグモーターから、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の割り振りを受けていたという問題だ。被害者どころか、「共犯では」と批判を浴びている。
ビッグモーター問題以上に業界の衝撃を与えているのが、企業向け保険のカルテル疑惑だ。
金融庁が損保大手4社に報告命令を出したほか、公正取引委員会も独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで調査に入った。
損保側から不当に高い保険料の請求を受けていたとみられる企業も次々と明らかになっており、もはや逃げ切れない状況だ。
発端は、東急Gの火災保険契約入札での不自然な動き 各社が調査を進めると、同様の事案が判明
カルテル疑惑の発端は2022年12月、私鉄大手の東急グループ(東急G)が火災保険契約の入札で、不自然な動きに気づいたことだ。
東急Gはこれまで、大手損保4社と3年契約で総額20億円程度の保険契約を結んでいた。その更新に際し、4社に見積もりを求めたところ、入札の提示額が3年契約で30億円程度と横並びに。不審に思った東急Gが、損保側に調査を求めた。
ここで、まず「白旗」を揚げたのが、東京海上日動火災保険だ。
外部弁護士による調査を進めたところ、損保の担当者間で価格調整を行っていたことを担当者が告白。東京海上日動は2023年6月20日、「当社社員が主導した『保険料の調整行為』が行われた」などとカルテル行為を認める声明を出した。
こうなると、他社も頬被りは不可能で、追認を余儀なくされた。
ただ、損保業界内ではこの時点ではまだ「東急Gだけの個別の問題」「担当者の認識が甘かっただけだ」など、大ごとではないとの受け止めが多く、楽観的な空気がただよっていた。
しかし、各社がさらに調査を進めると、他の業界向けの保険でも同様の事案があったことが次々に判明。大手4社はいま、上へ下への大騒ぎとなっている。
リスク分散が目的の「共同保険」 企業向け保険の9割超を大手4社が独占するという問題点
カルテルの温床になったのは、共同保険といわれる仕組みだ。
製造業やインフラ企業では火災や自然災害に見舞われた場合、損失が巨額になる可能性がある。損保1社では引き受けきれないため、複数の会社で契約を引き受け、リスクを分散するのが「共同保険」だ。
契約した企業は、参加した保険会社ごとにシェアを決定。このシェアに応じて企業が支払う保険料や、事故などの際にもらえる保険金が割り振られる。
問題は、損保業界の寡占化が進み、企業向け保険の9割超を4社が独占していることだ。共同保険も4社の担当者でまわすケースが圧倒的に多く、「情報交換」という名目で長年、談合が行われてきた。
関係者によると、最もシェアが大きい社が「幹事社」となり、事故などの対応に加え、各社の入札額などを取りまとめる役割も担っていたケースが多いという。担当者が代わるごとに引継書が作られていたといい、カルテルは業界の慣行となっていた模様だ。
金融庁「調べられる限りの全情報を」 社内調査で「調べれば調べるほど、疑いのある事例が...」
行政側は態度を硬化させている。損保業界ではこれまでも保険金不払いなど顧客軽視の不祥事が繰り返されてきたからだ。
金融庁の担当者は「損保会社には全営業店を対象に調べられる限りの全情報をもってこいと命じている」と不信感をあらわにする。
行政の動きと並行して、損保各社も社内で調査を本格化させているが、「調べれば調べるほど、疑いのある事例が出てくる。どこまで広がるか予想がつかない」との悲鳴も聞こえてくる。
損保業界では近年の自然災害の多発を受け、企業向け保険を含め主力商品の収支が大幅に悪化している。
カルテルでそれを盛り返そうとの思いがあったのかもしれないが、「悪事」が明るみに出た今となっては後の祭り。すべてを明らかにして、行政と国民の判断をあおぐ以外、手はないだろう。
損保業会への信頼は再び地に墜ちた状況だ。(ジャーナリスト 白井俊郎)