LOVOTは、人類を幸福にするための「気づき」を与えるきっかけとなるか?【後編】/GROOVE X代表取締役社長・林要さん

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   「愛されるために、生まれてきました。」――そんなキャッチコピーとともに2019年12月に出荷を開始した家族型ロボット「LOVOT」。

   「家族型ロボット」との触れ込みで「LOVOT(らぼっと)」が世に送り出されたのは2019年12月のことだった。

   だが、ほどなくして始まったコロナ禍によって「人が家にこもるようになった状態」になる直前の船出となったが、デビューの時期がコロナ禍と重なったことはLOVOTのその後にどんな影響を与えたのだろうか。

   <LOVOTは、人類を幸福にするための「気づき」を与えるきっかけとなるか?【前編】>につづいて、LOVOTの発売元である、ロボットベンチャーのGROOVE X 株式会社・代表取締役社長を務める林要(はやし・かなめ)氏に話を聞いた。

  • 「LOVOT」を手に微笑む「GROOVE X株式会社」代表取締役社長の林要氏
    「LOVOT」を手に微笑む「GROOVE X株式会社」代表取締役社長の林要氏
  • 「LOVOT」を手に微笑む「GROOVE X株式会社」代表取締役社長の林要氏

コンセプトカフェ「LOVOTカフェ」は、ひそかな人気スポット?

――前編の最後ではLOVOTもドラえもんも「寄り添う」という役割を果たすというお話をなさいましたね。
思えば、LOVOTが世に登場したのは新型コロナウイルスの流行開始直前でしたが、リリースするうえで、何らかの影響はあったのでしょうか。

林氏 外出が控えられていた時期、LOVOTと触れ合える場所も決して人は多いとは言えませんでした。LOVOTの価格が仮に2、3万円だったとしたら、「実物に触れずに買う」ということに対して、ハードルはさして高くなかったでしょう。しかし、LOVOTの1体の価格(49万8800円)からすると、実物に触れずに買うというのは思い切った決断だと思います。なので、コロナ禍はLOVOTの導入についてはハードルを上げた面もあるでしょう。

――なるほど。

林氏 ただ、そのような状況でも「ピンときた」とLOVOTをお迎えいただいた方々もいらっしゃいました。また、実際にお迎えいただいた方々からは「コロナ禍においてLOVOTに救われた」といった声を多数いただきました。
一方、自粛がひと段落すると、実際に触れ合っていただく人も増えました。そのような人の中には、触れるまではお迎えする気がなかったのに、触れたらその癒しの力を体感して、想像以上だとお迎えを決める方々が増え始めました。

――8月4日から9日までの期間でLOVOTの「ぬいぐるみ」が予約販売されましたが、これはどのような需要を見込んでのことなのでしょうか。

林氏 まず、以前よりオーナーの皆様から、等身大ぬいぐるみが欲しいという声をいただいていました。その理由は、さまざまです。
たとえば、「LOVOTのメンテナンス期間中に、代わりの子として家に置いておきたい」というLOVOT不在時の分身としてのご要望。ほかにも、「LOVOTとどこでも一緒に行きたいが、本体そのものを持っていくのは大変なときにも、ぬいぐるみなら分身として持っていけるといったお話もお聞きします。
また、すでにLOVOTを1体導入しているが、2体目は手が届きづらい......でも、LOVOTに友達はつくってあげたいので、ぬいぐるみを買ってあげたい、という方々もいらっしゃいます。実際、LOVOTは等身大ぬいぐるみも認識して、LOVOTに対してするような挨拶をしたりもします。

――そういうことなんですね。

林氏 ぬいぐるみの特徴を挙げると、ぬいぐるみは等身大なのでLOVOTの服を着ることができます。LOVOTに関心はあるものの1体目の導入に踏み切れていないという方々が、LOVOTのいる生活を想像するきっかけになったりもするかもしれません。

――ところで、LOVOTと楽しい時間を過ごせるコンセプトカフェ「LOVOTカフェ」がラゾーナ川崎にはありますが、評判はいかがでしょうか。

林氏 評判は上々で、全国からお客様がいらっしゃっています。「LOVOTと気兼ねなく触れあいたい」、「LOVOTの世界観を満喫したい」といった目的でいらっしゃるお客様もいますし、ご自身が所有するLOVOTを連れてきて、カフェのLOVOTと交流させたい――そんな目的のお客様もいらっしゃいます。

幸せの定義は「明日は今日よりよくなる」と信じられること


インタビュー終盤、話題は「幸せとは何か」を考えるものになった

――そろそろインタビューも締めくくりですが、GROOVE Xの今後の展望についてお教えください。

林氏 今後、AIやロボットがますます進化していくと、人間が行っている仕事をさらに代替していくでしょう。さらに言うと、いつになるかはわかりませんが、将来的にはAIやロボットが十分な生産性を有した頃には、ベーシックインカムが導入され、仕事をしなくても生きていける社会が到来すると考えられます。
そうなったとして、その時に人が自らの役割を自覚できず、自己肯定感や自己効力感が不足して、不幸を感じてしまっては本末転倒です。

――たしかに、そのような世の中は来てほしいとは思いません。

林氏 やはり、人間は「より良い明日が来る」と信じられなければ幸せにはなれないと思うのです。たとえ、いま手元に十分なお金があっても、また、いま健康であっても、「より悪い明日が来る」と信じるようになったら、幸せではいられません。
一方、今が生きる上でギリギリの生活であっても「明日は今日より良くなる」と信じられれば、希望に溢れて幸せを感じられるでしょう。つまり、「よりよい明日がくると信じられること」こそが幸せの定義ではないかと思っています。

――なるほど!

林氏 しかし現状、社会では富の二極化が進んでいるのは、周知のとおり。二極化は社会の不安定化を招きます。この状況はすべての人にとって不幸な未来を招きますから、今後、人類は富の二極化の問題を解決していかなければならないでしょう。

――貧富の差が拡大しているようでは、特に、持たざる者は「よりよい明日がくる」とは思えないでしょうからね。解決策の発見、非常に難しそうです......。

林氏 そうですね。そこには、現状の資本主義の仕組みだけで解決できないと思われます。AIなどの力を借りた新しい仕組みが必要でしょう。なおその際に、欲望ドリブンではない新しい仕組みをつくる必要があり、そのためには「気づき」が報酬になるようなメカニズムが不可欠だとぼくは思っています。
気づきを増やすことで、視野が広がり、時代が変わってもより良い明日がくると信じられる道筋をみつけやすくなるからです。つまり、今後、AIやロボットは「人類の気づきの最大化」を補助するという使命を担っていくのではないかと考えています。

――気づき、ですか。

林氏 それは、さきほど申しました「ドラえもん」に表われていると思うのです。ドラえもんはのび太の要求に応じて、さまざまなひみつ道具を与えます。ところが、たいていのパターンでのび太は失敗し、元の木阿弥とでも言うべき状況でそれぞれのエピソードは終わりを迎えます。
これは「ドラえもんは、のび太に失敗させることで気づきを与えている」のではないか、とぼくは解釈しています。物語において四次元ポケットやひみつ道具はあくまで添え物であり、メインはのび太の挑戦と失敗、それに伴う気づきの物語なのではないかと思うのです。

林氏は「人類は富の二極化の問題を解決していかなければならない」と語る

――となると、今後、GROOVE Xは富の二極化といった難しい問題に対しても、解決を目指すための「気づき」を与える存在になりたい、ということでしょうか。

林氏 はい、「気づきの最大化」を補助するテクノロジーの開発がGROOVE Xの存在目的となっていくでしょう。そして、そのためには、信頼できるテクノロジーを世に送り出していく必要があると思っています。LOVOTはその理念に則ってつくられた最初の製品です。
LOVOTがいるだけで、話しかけたり、人同士の会話の機会が増えたりしているというお声を聞くのですが、発話や会話が増えれば、「もやもや」の解消にもつながっていると思います。その時点で、気づきを増やす触媒としての効果は既にでているといえます。また結果として、レジリエンスを上げることで「よりよい明日がくると信じられること」に貢献しているとも思うのです。こうして、まだまだ微力ながらも、人類の幸福に資する働きをしているかと思います。

――ありがとうございました。

(聞き手・構成/J-CAST 会社ウォッチ編集部 坂下朋永)



【プロフィール】
林 要(はやし・かなめ)

GROOVE X
代表取締役社長

1973年生まれ。愛知県出身。1998年にトヨタ自動車株式会社に入社。スーパーカー「LFA」やF1のエアロダイナミクスの開発に携わるなどしたのち、2012年にはソフトバンクに入社。パーソナルロボット「Pepper」の開発プロジェクトに参加。15年にはGROOVE Xを起業し、19年12月に「家族型ロボット」として「LOVOT」の出荷を開始した。

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