現在の中国とバブル崩壊時の日本、これだけある共通点
3期目の習近平政権に期待できないとなると、世界経済はどうなるのか。
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、上下2本の緊急リポートで、中国はバブル崩壊後に失われた30年をたどった日本と同じ道をたどるだろうと予測した。
「世界経済『静かなる危機』(1):中国経済は日本化するか?(上):ダブル・デフレと深刻なディレバレッジ(資産圧縮)のリスク」(8月8日付)と、「世界経済『静かなる危機』(2):中国経済は日本化するか?(下):日本のバブル崩壊との類似点」(8月9日付)の2つのリポートだ。
そのなかで、木内氏は「多くの国が物価高騰に苦しむ中、世界第2の経済大国である中国では逆に、物価の下落と不動産価格の下落の『ダブル・デフレ』に陥るリスクが高まっている」と指摘する。
そして、現在の中国の状況はバブル崩壊にいたった1990年代初頭の日本と、次の点でよく似ているという【図表3】。論点を整理すると、以下のようになる。
(1)ともに高度成長から一転、成長率が下方に屈折する局面であること。
(2)屈折する大きな要因の1つが、人口が減少して経済の潜在力が失われること。
(3)大幅な金融緩和のもとで、不動産などの資産価格が大幅に上昇して、企業、家計ともに過剰債務となる。それが、銀行の不良債権問題などにつながる。
(4)不動産価格が一気に下落するが、ともに当局は不動産業界を救わず、不動産価格の下落を容認する。日本では「住宅価格の高騰によって、マイホームの夢が遠のいた」との批判が広がり、社会問題化。中国では「共同富裕」の理念に反するとして、不動産業界を厳しく締め付けている。
そして、対米関係、つまり米国との「貿易摩擦」まで共通しているという。
(5)日本は内需拡大を通じて輸入を増加させ、貿易黒字を減少させることを米国から求められた。過剰な金融緩和を通じて内需刺激が進められた結果、資産価格の高騰(バブル)を招いた。中国では前トランプ政権、現バイデン政権ともにハイテク分野を中心に規制が強化され、対立が続いている【図表3】。
木内氏は、中国が日本と同様に長期の経済低迷に陥る危機を「中国の日本化(ジャパナイゼーション)」と呼ぶ。世界2位の経済大国が日本のようになったら世界はどうなるのか。
木内氏はこう結んでいる。
「当時世界2位の経済規模を誇っていた日本がバブル崩壊で大きな打撃を受けても、世界の危機にならなかった。米国経済はなお堅調を維持し、世界経済を主導したのだ。
懸念されるのは、日本のバブル崩壊後の1990年代ほどには、米国経済が堅調を維持できない可能性があることだ。米国でも不動産価格は下落に転じつつあり、それが中堅・中小銀行の経営不振と企業のディレバレッジ(債務圧縮)をもたらす可能性がある。
米国でこの先起こることも、急激な経済・金融の危機といった『急性病』ではなく、緩やかにしかし長く進行する『慢性病』となるのではないか。『慢性病』ながらも、世界第1位の米国と第2位の中国の経済が『慢性病』に陥れば、世界経済の安定性は大きく損なわれてしまうのではないか」
(福田和郎)