世界中でインフレとの戦いが長引く中、中国経済がデフレに陥ったのでは、という懸念が高まっている。
最近、相次いで発表されている経済指標が「ダブル・デフレ」の兆候を示しているという。コロナ禍から立ち直り、世界経済の牽引役を期待されている中国に何が起こっているのか。
エコノミストの分析を読み解くと――。
消費者物価指数がマイナス、輸出入も大幅な減少
中国国家統計局が8月9日発表した2023年7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.3%下落した。コロナ禍の2021年2月以来、2年5か月ぶりに低下した。
雇用などへの先行き不安に伴う消費の弱さから、自動車やスマートフォンなど耐久財が値下がりした。6月の消費者物価指数も横ばい(対前年同月比0.0%)だったから、物価は下降に転じたことになる。
その前日の8月9日に中国税関総署が発表した7月貿易統計でも、輸出が前年同月比14.5%減少(市場予想は13.2%減)、輸入も同12.4%減少(市場予想は5.6%減)と、それぞれ市場の予想を大幅に下回る落ち込みとなった。外需と内需の低迷が中国経済の重石となっている姿を浮き彫りにしたかたちだ。
こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。
日本経済新聞オンライン版(8月9日付)「中国、7月消費者物価0.3%下落 2年5カ月ぶり」という記事に付くThink欄の「ひとくち解説コーナー」では、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者が、
「ついにCPIが水面下に沈み、デフレの足音が高まっています。昨日発表の7月の貿易統計でも中国の輸入は前年比でマイナス12.4%のつるべ落とし。国内需要の不振から購買力が弱まっている様子がクッキリと。不動産バブルの崩壊、人口減、空前の若年失業率。バランスシート不況に飲み込まれつつある中国で、当局が採用した新たな対策が話題になっています」
と解説。そのうえで、
「英経済紙ファイナンシャル・タイムズによれば、エコノミストに景気悪化に対する箝口令を敷いているのです。見ざる、聞かざる、言わざる、の行方はかなり厳しいものになるでしょう。国内経済の行き詰まりと募る社会矛盾を、近隣諸国・地域に転嫁することのないよう、祈るばかりです」
と、中国当局の閉鎖性を指摘した。
同欄では、北京市に本部がある中国の国立大学「対外経済貿易大学国際経済研究院」の西村友作教授が、
「CPI低下の主要因は食品価格の低下にあると考えられます。中国の総合CPIは、食品価格、特に豚肉価格の影響を大きく受けるため、『中国豚肉指数』(China Pork Index)と揶揄されています。足元では、その豚肉価格はマイナス26%と、先月のマイナス18.8%からが大きく下落しており、物価の下押し圧力となっています」
と説明。そして、
「その他の食品でも、ほとんどすべての項目で先月よりも価格が低下しています。例えば、野菜は先月のプラス10.8%から、マイナス1.5%へとマイナスに転じました。7月は、猛暑や大雨といった異常気象が続きましたので、これが大きく影響した可能性が考えられます」
と現地から報告した。