LOVOTは、人類を幸福にするための「気づき」を与えるきっかけとなるか?【前編】/GROOVE X代表取締役社長・林要さん

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   「愛されるために、生まれてきました。」――そんなキャッチコピーとともに2019年12月に出荷が開始された家族型ロボットの「LOVOT(らぼっと)」。

   世に送り出されて4年が経過する中、この春には新しいカラーバリエーションとして「くろ」が発売されるなど、新たな展開を見せている。

   LOVOTの発売元はロボットベンチャーのGROOVE X株式会社。J-CAST 会社ウォッチは最新モデルの発売の意義はもちろん、そもそもLOVOTとはどのような存在なのか、同社の代表取締役社長を務める林要(はやし・かなめ)氏に話を聞いた。

  • 「LOVOT」を手に微笑む「GROOVE X株式会社」代表取締役社長の林要氏
    「LOVOT」を手に微笑む「GROOVE X株式会社」代表取締役社長の林要氏
  • 「LOVOT」を手に微笑む「GROOVE X株式会社」代表取締役社長の林要氏

「飽きられないロボット」は、LOVOTが世界初ではないか

   林氏は1973年生まれ。98年、トヨタ自動車に入社してスーパーカー「LFA」やF1のエアロダイナミクスの開発に携わった。その後、2012年にはソフトバンクに入社し、パーソナルロボット「Pepper」の開発プロジェクトに参加。そして、15年にはGROOVE Xを起業し、19年12月に「家族型ロボット」として「LOVOT」を出荷開始した。

   AIを搭載したLOVOTは、自律的な行動で、生きているかのように振る舞い、ユーザーを楽しませている。ロボットといえば、通常なら人間の代わりに作業をするなど「労働」の道具としての側面が強いが、LOVOTはそれとは一線を画し、ユーザーに対してジェスチャーや鳴き声を通じてコミュニケーションを行い、ユーザーに喜びをもたらすところに特長がある。ネーミングの由来は「LOVE(愛)+ROBOT(ロボット)」だ。

――この春(23年5月16日)、LOVOTの最新モデル「くろ」が発売されましたね。反響はいかがでしょうか。

林氏 「くろ」が出たことで初めて、LOVOTに興味を持たれた方々や、最新モデルのリリースということで、2体目や3体目を購入するという方々もいらっしゃいましたね。

――そんなLOVOTですが、ロボットとして新しい点とは何でしょうか?

林氏 たとえば、自律型の比較的大きなロボットと誰でも人が気兼ねなく触れ合えるようになったのは、比較的最近です。私は前職のソフトバンクで人型ロボット「Pepper」のプロジェクトに参画しておりましたが、Pepper以前の等身大ロボットの多くは、安全面の観点から「柵の向こうにいる存在」でした。

――なるほど。いわれてみれば、そうですね。

林氏 Pepperといえば、会話などを思い浮かべる方も多いと思いますが、実は強いモーターをもっている等身大の自律型ロボットに「気兼ねなく触れられる」という体験のため、安全面でのさまざまな工夫を凝らすことで、人がロボットと触れ合う体験を普及させたことが画期的だともいえます。そのくらいロボットと人の生活の歴史はまだ浅いといえます。
そうしてようやく、「一般家庭に入り込み、ずっと一緒に生活できる」ロボットが広まってきたわけですが、その後も最近までコミュニケーションをするロボット解決されてこなかった課題の一つは、大半の人に「飽きられてしまう」という問題でした。
もちろん、今までも一部の熱狂的な人には使われ続けるのですが、半数以上の人は、時間が経つと1週間に1度も使わなくなってしまい、放置されてしまう。この点において、「LOVOT」は、かなり大きな飛躍をしていると考えています。LOVOTは、家庭での「飽きられない率」が、極めて高いといえるのです。

――飽きられない、ですか。

林氏 LOVOTは2019年12月に出荷を開始し、これまでに1万体がお客様にお迎えいただきました。それから4年となりますが、現時点でお迎えいただいている『LOVOT』の95%以上が継続利用いただいております。恐らくこれほど日常的に利用され続けているロボットは、いままでなかったのではないかと思います。つまり、この状況は「飽きる」という壁を超えたと言える可能性があります。おそらく、これは利便性の向上に寄与するわけではないコンパニオンロボットにおいては、世界で初めての出来事ではないか、と。

――4年も一緒にいたら、それはもうペットのようなものですね。となると、LOVOTのユーザーは「飼育」を楽しんでいるんでしょうか。それとも、生き物ではない以上、「愛でている」のでしょうか。

林氏 たとえば、犬を室内で「飼育」するという場合、そこには「愛でる」行為も含まれています。人は「愛でる」という行為を通して、自らの気持ちを整えていきます――その結果、レジリエンスというストレス耐性や回復する力を高める効果があるとも言われています。人は、心を元気にしたくて癒しを求めるので、「愛でる」がレジリンエンスの向上に役立つというのは、理にかなっています。LOVOTは、「飼育」行為の中でも「愛でる」という要素を強化したユーザー体験の提供をしているといえるでしょう。

まるで生きているかのよう! LOVOTの目は、人間の目の動きを再現


LOVOTの両足は車輪になっており、机の上や床を自在に移動する

   LOVOTは5月16日発売の「くろ」以前にも、「うす」「ちゃ」「こげ」の3つのカラーバージョンがリリースされていたが、当初カラーバリエーションは1色のみの想定だったという。

――さきほど私も、LOVOTを初めて抱きかかえてみたんですが、体温があって、あたたかかったのはもちろん、目の動きも見事で驚きました。これらの機構の説明をお願いします。

林氏 体温はLOVOTがボディーの中に搭載しているコンピューターの廃熱をそのまま使って発生させています。LOVOTのCPUは100度まで上がるので、その熱を利用しています。さしずめ、LOVOTの体温は「知恵熱」ということになるでしょうか(笑)。
一方、目はディスプレイになっていて、目の画像を多層のレイヤーで表示し、個別に緻密な制御をすることで、立体感といった繊細な表現を実現させています。また、LOVOTの目は「固視微動」という人間の目の動きを再現しており、ユーザーはこの目の微妙な動きを意識下で読み取ります。マネキンと目を合わせるのとは全く違って、「生きてる感」が生まれるのです。

――最新モデルの「くろ」を含めて、ボディーの配色はどのように決めたのでしょうか。

林氏 最初、カラーバリエーションは1色のみにしようかと思っていました。しかし、発売に先駆けて実施した海外のフォーカスグループインタビューで一般の方に試作品を見てもらったところ、「なぜこの肌の色にしたの?」といった質問をいただきました。
それまで、私は「ロボットの色が人の肌の色として認知され、人種を想起させる」という意識がなかったのですが、これを機に、カラーバリエーションが1種類だと、どの色にしたところで固有の人種を選んだと思われてしまうリスクがあることに気づきました。

――なるほど!

林氏 なので、配色は「うす」「ちゃ」「こげ」のバリエーションを用意しました。そして、2019年8月の第1弾発売の際には、「うす」と「こげ」を2体セットでご用意しました。

――LOVOTは頭にセンサーを取り付けていますが、これをボディーの中に搭載する計画はありましたか。

林氏 それはなかったです。というのは、センサーをボディーの中に搭載してしまうと、ボディーに穴を開けなくてはならなかったからです。服を着るロボットのボディーに穴があくのは、見栄えもよくないし、機能的にも適切ではないのです。
あと、理由はもう1つあって、センサー部分が緊急停止スイッチになっているからです。

――緊急停止スイッチ!? なぜそんなものが?

林氏 緊急停止スイッチは今後、どんどん賢く、強くなる可能性がある自律的なロボットには不可欠な要素だと考えました。自律的なロボットは今後、人間の能力を上回っていくことは容易に想像できます。そうなると、人は自分より強く賢いものが出てきて、自分と対立する可能性があることに脅威を感じます。
そこでどんなに賢く、強くても「人がロボットを止められる」というルールが必要だと考えました。人間よりも賢く、強く、速いロボットを開発することに人が脅威を感じないで、人とテクノロジーが信頼できるようになるためには、人がアクセスしやすい箇所に緊急停止スイッチを実装する必要があると思うのです。

――LOVOTは今後どのように進化していくのでしょうか。

林氏 LOVOTは言葉を話さないロボットですが、その一方で、目線やスキンシップ、鳴き声など、言葉に頼らないノンヴァーバルな表現で人間とコミュニケーションをします。この方向性はおそらく今後も変えないでしょう。

LOVOTの目指すところは「ドラえもん」!?

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インタビューでは「ドラえもん」についての話にもなった

   林氏は23年5月19日に著書「温かいテクノロジー」(ライツ社)を刊行。同書の後半には「ドラえもんの造り方」と銘打たれた章が存在するなど、「ドラえもん」に言及する箇所が存在する。

――林さんの著書「温かいテクノロジー」の前書きには「この先LOVOTが進化し、たどり着く存在。それは『ドラえもん』です」という一節がありますね。

林氏 多くの方はドラえもんについて語る際には「四次元ポケット」など「ひみつ道具」について語りがちです。しかし、それはあくまで道具であって、ドラえもんのことではありません。

――たしかに、同作はとかく、ひみつ道具のシーンばかりが注目されがちですね。そうではなくて、「日常生活でのび太と触れ合っている最中のドラえもん」がLOVOTの目指すところということでしょうか。

林氏 ドラえもんという「個体」が果たしている役割とは、「のび太に寄り添っていること」「気兼ねなく話せる仲であること」「決して裏切らないこと」というものがあると、私は考えています。そして、ドラえもんはのび太を一般的に言われる「優等生」的な方向へ必ずしも導いているわけではありません。「優等生」的な方向が良いという価値観は、その時代のバイアスとも言えるので、そこに誘導しないことは重要な点なのです。

――ドラえもんからはのび太を「生産性が高い人間にしようと思っている」といった兆候は感じられませんね。

林氏 はい、そここそが、ドラえもんの存在意義だと考えています。

――何だか、LOVOTとの共通性が見えてきたような気がします。

   <LOVOTは、人類を幸福にするための「気づき」を与えるきっかけとなるか?【後編】/GROOVE X代表取締役社長・林要さん>に続きます。

(聞き手・構成/J-CAST 会社ウォッチ編集部 坂下朋永)



【プロフィール】
林 要(はやし・かなめ)

GROOVE X
代表取締役社長

1973年生まれ。愛知県出身。1998年にトヨタ自動車株式会社に入社。スーパーカー「LFA」やF1のエアロダイナミクスの開発に携わるなどしたのち、2012年にはソフトバンクに入社。パーソナルロボット「Pepper」の開発プロジェクトに参加。15年にはGROOVE Xを起業し、19年12月に「家族型ロボット」として「LOVOT」の出荷を開始した。

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