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東証プライムからスタンダードへ「降格」? モバイルファクトリーに何が起こったのか【よくわかる企業分析】

   就職先や転職先、投資先を選ぶとき、会社の業績だけでなく従業員数や給与の増減も気になりませんか?

   上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、位置情報連動型ゲーム「ステーションメモリーズ!」の運営などを展開するモバイルファクトリーです。

   モバイルファクトリーは2001年に現代表取締役の宮嶌裕二氏が設立。翌年には、着メロASPサービスを開始。2011年に位置ゲーム「駅奪取」、2014年に同「ステーションメモリーズ」をリリースし、2015年に東証マザーズに上場します。

   2017年に東証一部に市場変更し、2022年に東証プライム市場に移行しましたが、株価低迷で時価総額が「上場維持基準」を満たすことができず、2023年10月20日をもってスタンダード市場への「降格」を発表しています。

コロナ禍で大崩れしていないものの、急成長もせず

   それではまず、モバイルファクトリーの近年の業績の推移を見てみましょう。

   モバイルファクトリーの売上高は、2014年12月期には15億円程度でしたが、その後右肩上がりに伸び、2016年12月期に20億円を突破、2019年12月期には約32億円にまで伸びました。

   2019年12月期は主力の「位置情報連動型ゲーム」が前期比で15.8%増となり、他のサービスの減収をカバーしています。

   その後、コロナ禍の影響もあり、売上高は微減しましたが、2022年12月期には31.4億円まで回復。2023年12月期は32.7億円と、過去最高を更新する見込みです。

   営業利益は売上高と同様、2019年12月期にピークとなり、営業利益率は34.8%の高水準に。当期純利益も7.7億円まで伸びました。

   翌2020年12月期の売上減にも販管費の削減などにより営業利益率30.2%で持ちこたえ、翌期以降も29.4%、27.5%と微減にとどまっています。

   2023年12月期は営業利益率が27.4%、当期純利益が6億2100万円となる見込み。営業利益率がやや悪化していますが、大崩れしているわけではないようです。

10年以上の歴史ある位置ゲーが支え、新規事業は赤字

   モバイルファクトリーのセグメントは3つ。主力の「モバイルゲーム事業」は、位置情報連動型ゲーム「ステーションメモリーズ!(略称:駅メモ!)」などを展開しています。

   駅メモ!は、ユーザーが全国各地の鉄道駅を訪問し、GPS(位置情報)を使って鉄道をモチーフにした萌えキャラ「でんこ」を集めて、他のプレイヤーと競い合うゲーム。2014年6月に運営が開始され、2022年6月28日に誕生8周年を迎えました。

   関連サービスには、でんこと写真撮影ができるカメラアプリ「駅メモ!おでかけカメラ」や、ブラウザ版の「駅メモ!Our Rails(通称:アワメモ!)」、駅メモ!のシステムのベースとなり2022年に配信11周年を迎えた「駅奪取シリーズ」があります。

   「コンテンツ事業」は、自社で運営している着メロやスタンプ素材等を配信するサービス。「ブロックチェーン事業」は、NFT(Non-Fungible Token)を日本円で気軽に購入できるマーケットプレイス「ユニマ」などを運営しています。

   なお、「モバイルゲーム事業」の売上高は27億7582万円で全体の88.3%、セグメント利益は9億6494万円でほぼすべてを生み出しています。一方の、「コンテンツ事業」のセグメント利益は2億2911万円、「ブロックチェーン事業」はマイナス3億2920万円(赤字)でした。

   つまり売上利益のほとんどは、10年以上の歴史がある位置ゲームが生み出しています。着メロは自然消滅、2017年12月に参入したブロックチェーン事業はいまだ赤字ということで、何年も変わり映えしない収益構造、といえるかもしれません。

平均年収548.9万円、平均年齢33.5歳

   モバイルファクトリーには連結子会社が2社ありますが、従業員数は連結/単体とも同じです。2018年12月期の75人から、82人、90人と増加し、2021年12月期も90人でしたが、翌2022年12月期には87人に微減しています。

   モバイルファクトリーの平均年間給与は、2018年12月期から右肩上がりに伸び、2021年12月期には557.3万円となりましたが、2022年12月期には548.9万円に微減。従業員の平均年齢は33.5歳、平均勤続年数は6.2年です。

   モバイルファクトリーの採用サイトを見ると、新卒採用では「エンジニア」「総合職(プランナー)」「デザイナー」の求人募集があります。

   キャリア採用では、ブロックチェーン事業の「エンジニアリングマネージャー候補」と「Webデザイナー(リードデザイナー)」、駅メモ!の「ネイティブアプリエンジニア(iOS、Android)」「UI/UXデザイナー」、バックオフィスの「経営管理」「暗号資産関連 開示業務担当」の求人募集があります。

   ブロックチェーン事業でのアプリケーション開発のエンジニアリングマネージャー候補の場合、想定年収は575万円?850万円(非管理職採用の場合は見込み残業代40時間分、管理職採用の場合は深夜残業代10時間分を含む)。原則リモートワークで、地方在住者もOKです。

自己株式取得も、「焼け石に水」

   モバイルファクトリーは現在プライム市場に上場していますが、上場維持基準に適合していない項目があり、2021年11月12日に「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示しました。

   不適合の項目は「流通株式時価総額」で、上場維持基準100億円のところ58億円という状況でした。このとき会社は「株価」ならびに「時価総額」の低迷の主な要因を「株主および投資家の求める業績水準に達していない」ためとしています。

   そこで会社は「中期経営計画(2021~2025)」を策定し、「ユニマ」を中心としたブロックチェーン事業を位置情報連動型ゲームに並ぶ収益の柱とすべく取り組んでいます。

   しかし、その後の業績は前述の通りで、既存のゲームタイトルに依存する収益構造に変わりがなく、期待のブロックチェーン事業は赤字が続いているうちにWeb3市場が冷え込んでしまいました。

   このような状況で、2022年12月末時点の流通株式時価総額は36億円まで落ち込み、会社は2023年1月27日に自己株式の取得を発表しましたが、株価は戻りません。

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モバイルファクトリーの直近1年間のチャート(TradingViewより)

   計画書には、2025年12月末までの基準適合を目指すとしていましたが、このままでは上場廃止の可能性も出てきたため、会社はついに7月25日にスタンダード市場への選択申請を行うと発表しました。なお、スタンダード市場の流通株式時価総額基準は10億円で、モバイルファクトリーはこれに適合しています。(こたつ経営研究所)