実質賃金がプラスになるチャンスは、2023年9~12月のどこかに
一方、それより早く、「今年(2023年)9月~12月のどこかで実質賃金がプラスに転じるチャンスがやってくるかもしれない」と指摘するのが、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏がリポート「現金給与、総雇用者所得は伸びる~いずれ実質賃金も動く」のなかで注目したのが、内閣府が月例経済報告の中で参考資料として発表している「総雇用者所得」だ【図表2】。「総雇用者所得=1人当たり現金給付×雇用者数」という数式で表される。
熊野氏はこう指摘する。
「6月の毎月勤労統計では、現金給与総額の前年比がプラス2.3%(速報)と高まった。賃上げ効果の底上げと、夏季賞与の増加の両面が寄与している。5月は、改訂されて前年比プラス2.9%まで高まったので、2か月連続で高い伸びを記録していることになる。
筆者(=熊野氏)が注目するのは、これに雇用者数の伸び率を加味した『総雇用者所得』も同様に高い伸び率になることだ。6月は未発表であるが、筆者の推計では、前年比3.3%と5月(3.3%)並みの高い伸びになると予想している【図表2】。
この伸び率は、2020年に始まったコロナ禍以降では、2022年12月(3.9%)に次ぐ高い伸びになる(2023年5月に並ぶ)。マクロ消費に対するインパクトは、この雇用者所得の総額で決まってくるので、5・6月と所得面で大きな追い風が吹いていることになる」
たしかに【図表2】を見ると、総雇用者所得の伸び率は、毎月勤労統計の現金給与の伸び率を上回っており、勢いが感じられる。このことから熊野氏は、明るい見通しをこう述べている。
「4~6月の個人消費が盛り上がり、それが中堅・中小企業の売上増に波及すると、賃上げの余力が高まる。4~6月の総雇用者所得の伸び率が高まることは朗報である。2023年夏季賞与が好調であることも、中堅・中小 企業に収益拡大の効果が及んでいる蓋然性を高める証拠になっている」
「消費者物価の伸び率が鈍化してからが勝負だ。輸入物価の前年比が鈍化して、それが約6か月遅れで消費者物価の財価格を押し下げてくるはずだ。計算上は、2023年9月頃から消費者物価の伸び率は鈍化してくる。ならば、実質賃金が日本でもプラスになるチャンスは、2023年9~12月のどこかでやってくると期待できる」
(福田和郎)