2024年4月から「時間外労働の上限規制」が適用(いわゆる「2024年問題」)されるさまざまな業種では、対応が進められている。
だが、日本建設業連合会(日建連)が2023年7月21日に発表した調査結果によると、建設業では2022年度で約半数が時間外労働の上限の年間360時間を上回っていること明らかになった。
全産業の総実労働時間は平均1954時間 建設業の一般労働者は2172時間
調査は会員企業140社(対象労働者数14万1408人)に対して実施され、113社から回答を得た。
年間の総実労働時間では、2022年度は管理監督者が前年比1.0%減の2161時間、非管理監督者が同0.6%減の2172時間となっている。ただ、全産業の常用雇用者の平均1954時間と比べると、大きく上まわっている。(グラフ1)
管理監督者とは、労働基準法第41条2号内の「監督もしくは管理の地位にある者」を指し、一般企業の管理職とは違う。管理監督者は重要な職務内容と重要な責任と権限を有し、労働時間などの規制になじまない勤務態様で、地位にふさわしい待遇を受けているもので、強いていうならば役員に近い地位にある人だ。
このため、管理監督者は労働基準法上特別な扱いを受けるため、時間外労働や休日出勤における割増賃金の支払いが発生せず、労働時間の制限もない。
この点から見ると、建設業界の年間の総実労働時間は、一般労働者である非管理監督者の総実労働時間が、労働基準法の制限を受けない管理監督者を10時間以上上回っている状況だ。
「時間外労働の上限規制」月45時間上限でみると、建築業の一般労働者6割が上限超過に
一方で、年間平均の時間外労働を見ると、2022年度は管理監督者が前年度比4.7%減の305時間なのに対して、非管理監督者が同3.6%減の351時間と、やはり非管理監督者が管理監督者を上回っている。
建設業界の動向としては、年間平均の時間外労働は減少傾向にあるものの、全産業の常用雇用者の平均167時間と比べると、建設業の非管理監督者は倍以上の時間外労働となっている。(グラフ2)
繰り返しになるが、2024年4月からの「時間外労働の上限規制」では、年間360時間以内が上限となる。
だが、非管理監督者では、2022年度の年間時間外労働が360時間以内だったのは52%で、360時間を超えている上限超過者が48%と半数近い状態だ。
特に、労働基準法の特例である年間720時間を超える時間外労働の割合が、年々減少しているとはいえ、8%もいることは大きな問題だ。(グラフ3)
これに対して、管理監督者では、年間時間外労働が360時間以内だったのは62%と、非管理監督者を10%上回っている。年間720時間を超える時間外労働の割合も5%と非管理監督者を下回っている。(グラフ4)
しかし、これは年間の時間外労働の360時間、特例の720時間を基準とした割合だ。「時間外労働の上限規制」では年間360時間以外に、月45時間も上限としており、これを基準とすると、2022年度の非管理監督者の上限超過者の割合は59.1%と6割近い割合に跳ね上がる。
さらに、労働基準法では特例として、第36条で法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働及び休日勤務などを命じる場合、労組などと書面による協定(いわゆる36協定)により、(1)年間720時間以内(2)2~6か月それぞれの平均が80時間以内(3)1か月100時間未満(4)月45時間超は年6回までを上限とした時間外労働が認められている。
だが、年間720時間以内という基準以外を加えると、2022年度の非管理監督者の特例上限の超過者の割合は22.7%と2割を超えている。
こうした状況から建設業における2024年問題への対応は、遅々として進んでいないのが実態だろう。建設業では長い間、人手不足が続いているため、時間外労働が当然の状況になっている。
ただ、「時間外労働の上限規制」をクリアしようとすれば、工期が延びる、あるいは工費が増加する可能性も高い。建設業における2024年問題は多くの問題を内包している。