2029年の打ち上げ目指す月面探査車「ルナクルーザー」開発...JAXA×トヨタ×三菱重工の強力タッグに 未来の技術は「再生型燃料電池」実用化に活かされるか?

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   トヨタ自動車と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で進める有人の月面探査車「ルナクルーザー」の開発に、三菱重工業が加わることになった。

   2029年の打ち上げを目指すルナクルーザーとは、どんなものなのか。私たちの日常生活には、どんなかかわりがあるのだろうか。

  • JAXAとトヨタが検討を進める「ルナクルーザー」コンセプト案(トヨタ自動車のプレスリリースより)
    JAXAとトヨタが検討を進める「ルナクルーザー」コンセプト案(トヨタ自動車のプレスリリースより)
  • JAXAとトヨタが検討を進める「ルナクルーザー」コンセプト案(トヨタ自動車のプレスリリースより)

トヨタ「ランドクルーザー」で培った悪路走破技術が、月面でも生きる

   米国主導の月探査「アルテミス計画」では2025年以降、月面に人類を送ることを目指しており、トヨタとJAXAでは同プロジェクトの一環として、月面での有人探査活動に必要なモビリティの「ルナクルーザー」の共同開発を進めてきた。

   トヨタのオフロード車「ランドクルーザー」に対して、ルナクルーザーという名称から連想されるように「月面を走るオフロード車」で、無人ではなく、2人のクルーが乗り込む有人の月面探査車だ。

   トヨタは「ランドクルーザーで培った堅牢な構造と、電動技術を融合した足回り」で、月面でのオフロード走行と自動運転を目指すとしている。イメージ写真では4輪駆動や6輪駆動となっている。

   月面は地球と異なり、岩石のほか、月面砂と呼ばれるサラサラの地表があるという。斜面のほか、大きなくぼみ(クレーター)もある。そんな月面を走るには、1輪が浮いた時に残りの車輪にトルクを配分して脱出を図る、ランドクルーザーの悪路走破技術が生きるのだという。

三菱重工、車内に人が滞在できる空間を確保する「与圧技術」を提供

   基本的に、電気自動車のルナクルーザーのエネルギーは「再生型燃料電池」だ。

   聞き慣れない名称だが、「日照時は太陽光発電で水を電気分解して水素と酸素を作り、夜間は蓄えた水素と酸素を反応させる燃料電池で電力を供給する」ものである。

   月面では昼と夜が約14日で入れ替わるため、太陽光のない14日間のエネルギー供給が課題になる。そこでトヨタは、再生型の燃料電池を活用する考えで、「MIRAI(ミライ)など地上で鍛えた燃料電池の技術と信頼性を月に生かす」と説明している。

   トヨタがこれら自動車の技術を月面で応用するのを目指すのに対して、三菱重工は従来からの宇宙開発で培った技術を生かす。具体的には、ルナクルーザーの車内に人が滞在できる空間を確保する「与圧技術」だ。

   三菱重工はこれまで国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の建設などを手掛けている。有人の宇宙滞在が可能となる空間や環境を確保する技術(有人宇宙滞在技術や耐宇宙環境技術)をトヨタやJAXAに提供するという。

地球上での「再生型燃料電池」活用に期待 離島や災害時の避難所などの電力供給源に

   月探査のアルテミス計画において、ルナクルーザーは、日本側が「売り込む」だけでなく、米航空宇宙局(NASA)の側にも日本への期待がある。

   有人の月面探査は年間最大42日間を予定。月面でのルナクルーザーの寿命は10年で、合計1万キロの走行を目指している。いずれにせよ、トヨタと三菱重工という日本を代表する「モノづくり」企業の技術が融合し、有人の月面探査車が実現すれば快挙に違いない。

   今後の展望として、計画通りルナクルーザーが実現した場合、地球上でも活用できるのは「再生型燃料電池」だろう。

   月の昼の14日間で水素と酸素を蓄え、夜となる14日間に電力を供給するこのシステムは、船舶のほか、離島や災害時の避難所などの電力供給源として期待できる、とトヨタは説明する。

   「水と太陽光があれば、半永久的にランニングコストゼロでカーボンニュートラルのエネルギーを供給できる」という再生型燃料電池は、果たして実用化に向かうのか。

   そんな未来技術を含むルナクルーザーの研究開発への期待が膨らむ。(ジャーナリスト 岩城諒)

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