ビッグモーター問題...続々と明るみになっている不正は、なぜまかり通っていたのか?(大関暁夫)

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   ビッグモーターの損害保険不正請求問題が、大炎上状態にあります。報道によると、この問題が発覚したのが昨年(2022年)の6月だそうです。

   そして、今年(2023年)1月に大手損保会社の要請による第三者員会の調査がおこなわれ、その報告書が6月にまとまり、公表されたことから、世間を揺るがす規模の一大不祥事が表沙汰になった、という経緯のようです。

経営者としてあり得ない責任転嫁に、怒りを覚える

   報告書公表後、マスメディアが一斉に大騒ぎをはじめましたが、当初、会社はだんまりを決め込んで、ノーコメントを貫いていました。

   監督官庁である、国土交通大臣から事を問題視する発言があって、また同省から事情聴取の呼び出しもかかったことから、ようやく「重い腰」を上げて、社長以下4人の役員が会見を開いたという流れでした。

   この流れだけでも十分に「痛い」感じだったのですが、会見での兼重宏行社長(当時)の質疑応答が突っ込みどころ満載で、見事にメディアの「餌食」になったというおまけまでついてしまいました。

   たしかに、ひどかったです。社長の一貫した知らぬ存ぜぬ姿勢もさることながら、こともあろうに不正な修理をした社員を犯罪者扱いして非難するという、経営者としてあり得ない責任転嫁には、見ているこちらも怒りを覚えるような失態でありました。

   くわえて申し上げれば、現場指揮における実権を握っていたとされる社長の長男、兼重宏一副社長(7月26日付辞任)が会見に同席しなかったことは、社長の「真実を隠そう」という姿勢の表れと受け取られても仕方がない、と思わせる部分でもありました。いまさらではありますが、謝罪会見の難しさを改めて実感させられる一幕であったと思います。

   そういった会見対応の失敗の結果ともいえますが、会見後は元社員や現社員からの暴露話を含め、さまざまな怪情報が飛び交って、もはや収拾がつかない状態になっています。

   もし会見に副社長が同席し、社長、副社長が社員のせいにすることなく、自らの責任を認め、潔く謝罪をしていたなら、このような展開にはならなかったでしょう。

   悪いものを隠し、経営者が責任を回避する、という展開で世間の批判をかってしまえば、あらゆるメディアにおいて彼らが「悪者」として叩かれ放題になってしまうのは、当たり前の展開でもありました。

未上場企業で、監理規制がなかったという問題点 取締役会が開かれた形跡もなく

   ところで、今回の報道の中で個人的に一番気になっているのは、従業員6000人、年商7000億円と言われる大企業がなぜ、損保不正請求だけでなく、不正な修理や契約とは名ばかりの強引な車の買取、社内での日常的なパワハラ、違法な街路樹伐採...、続々明るみに出ているような不正、違法がまかり通っていたのかです。

   最大の盲点は、同社が未上場企業であったということにあると思っています。上場企業の場合は、投資家保護の観点から、ガバナンスに関してさまざまな監理規制がかかっているのですが、未上場企業は会社法上「大会社」に分類されるビッグモーターでも、株主少数につきその規制はほとんどないのです。

   損保不正請求を調べた特別調査委員会の報告書によれば、取締役会設置会社の同社において取締役会が開かれた形跡はなく、法で義務付けられた監査役も1名だけで1か月にわずか1、2店舗回って簡単なヒアリングをしているのみ、という状況だったといいます。

   これでは経営に対してノーチェックも同然です。経営陣がどのような独善的、高圧的な経営をしていても、また、現場が悪事に手を染めていても気付きようがない、そんな状況下で一連の不祥事は起きていたとわかります。

   たしかにオーナー系企業の場合、会社の所有と執行を同じ人物がおこなうことで、ワンマン社長の強引な経営が組織にブラックやグレーな動きを強いるようなことにもなりやすい、とはいえるのかもしれません。

   しかし、ビッグモーターほどの大企業では従業員やお客様や取引先の数も多く、その悪事が表面化した時には、確実に社会問題化するような存在なのです。同社の経営陣は、自己が負うべき社会的責任の重さを省みることなく、自己本位の経営を続けてきたという点で、経営者として重大な過失を犯していたといえるでしょう。

社長の考えに異を唱える者がなくなり、イエスマンばかりになったら「黄色信号」

   ひるがえって中小企業でもし、同じように社長の強権経営によるコンプライアンス違反行為があったらとしたらどうでしょう。

   そこにあるのは、行為そのものの社会的影響力の大小だけの違い。行為が持つ意味合いは全く同じです。ビジネスにおける虚偽や不法行為、社内におけるパワハラや脅迫行為などは、外にわからなければいいのではなく、会社というものが社会的存在である以上、あってはならないことに違いはないのです。

   社長自身が自分の胸に手を当ててみて、自分がワンマン経営者でかつ現在、社内に誰も社長の考えに異を唱える者がなくなり、イエスマンばかりが目に付くように感じたら、それは「黄色信号」です。

   一般的な中小企業においては、監査役は存在せず、社長以外の取締役も名ばかりで経営の監視役にはなっていないケースが大半でしょう。すなわち、社長自身が自らを律する気持ちがなければ、いつビッグモーターと同じ轍を踏んでもおかしくないのです。

   今回一連の不祥事報道は、すべての中小企業経営者に対する警鐘でもあると感じた次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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