三菱UFJ銀行や三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、三井住友信託銀行の大手5行が、固定期間10年の住宅ローンの基準金利(最優遇金利)を引き上げると、2023年7月31日に発表。8月1日から適用している。変動金利型は全行が据え置いた。
7月27日、28日に開かれた日本銀行の金融政策決定会合で、日銀が大規模な金融緩和策を修正。長期金利の上限が0.5%を超えることを容認したことで、長期金利(10年物国債の利回り)が上昇。その結果、長期金利の影響を受ける住宅ローンの固定金利が上昇している。
金利上昇圧力が高まっており、住宅ローン金利は9月以降もさらに上昇する可能性が出てきている。本格的な金利上昇局面の「入り口」になるかもしれない。
住宅ローンの「固定金利」は、長期金利に連動
住宅ローンの金利は、日銀の金利政策によって、上がったり下がったりする。たとえば、今年5月31日に3メガバンクが発表した6月の住宅ローン金利は、固定金利をそろって引き下げた。
住宅ローンの固定金利は長期金利に連動する。
日銀は4月の金融政策決定会合で、長期金利の上限目標を0.5%程度で維持。4月に0.4%台で推移していた長期金利は、5月に一時0.3%台後半まで低下した。
それにより、日銀の金利政策の修正への期待感が後退。基準金利に低下圧力がかかった。このときの金利引き下げは、そういった市場の動きを反映したためだ。
10年固定の最優遇金利は、三菱UFJ銀行が0.68%、三井住友銀行が0.89%、みずほ銀行が1.20%、りそな銀行が1.38%に低下した。三井住友信託銀行は1.12%のままだった。
今回、8月1日から適用が始まった10年固定金利型住宅ローンの最優遇金利は、三菱UFJ銀行が前月から0.09%上昇の年0.78%、三井住友銀行は0.10%高い0.89%、三井住友信託銀行が0.07%上昇の1.15%、みずほ銀行は0.05%高い1.20%、りそな銀行が0.05%引き上げて1.39%となった。
大手5行がそろって金利を引き上げたのは、昨年12月に日銀が長期金利の変動容認幅を0.25%から0.5%に拡大した直後の今年1月以来となった。
なぜ、「変動金利」は上がらない?
一方、住宅ローンの変動金利型は、全行が据え置いた。
そもそも、変動金利型住宅ローンは、銀行が「短期プライムレート」(短プラ)をもとに決めている。その短プラは、日銀が誘導する無担保コール翌日物の金利に連動している。
ただ、無担保コール翌日物の金利は、2016年から日銀がマイナス金利に抑え込んでおり、現在も歴史的低水準にとどまっている。つまり、変動金利型は短プラの影響を受けているので、日銀の金融政策の変更の影響がないわけだ。
大手5行が固定金利型住宅ローンの引き上げを発表した7月31日の「無担保コール翌日物」の加重平均レートは、マイナス0.061%だった(速報ベース)。前営業日(マイナス0.059%)から、ほぼ横バイだった。
ちなみに、「無担保コール翌日物」とは、短期金融市場におけるインターバンク市場(市場参加者は金融機関のみ)の一つであるコール市場の代表的な取引。
金融機関同士が「今日借りて、明日返す」といったような1日で満期を迎える超短期の資金調達や資金供給を、借り手が貸し手に対して担保を預けずに行う取引をいう。
固定金利と変動金利 いま買うなら、どっちを選んだほうがいい?
マンション購入の大きな判断材料になるのが金利の動向だ。
住宅ローン金利は長期金利の動向に大きく左右される。固定金利型住宅ローンの金利(住宅金融支援機構の「フラット35」の場合)は、長く年1~2%程度で推移してきた。
ところが、2022年12月20日の日銀の金融政策決定会合で、長期金利(10年物国債の利回り)の上限を0.25%から0.5%に引き上げる、事実上の利上げといえる金融政策の変更があった。
この方針転換を受けて、今年(2023年)1月から、住宅ローンの金利も最大年3.270%(「フラット35」の借入金利)まで上昇した。
しかし、今年4月10日に日銀の植田和男新総裁が金融緩和の継続を表明したことで、当日の長期金利は表明前の0.465%から0.420%まで低下。それにより、住宅ローン金利も4~5月は低下した。
現在、長期金利の上昇圧力は強く、住宅ローンの固定金利はさらに上昇する可能性が高い。では、マンションをいま買うなら、固定金利と変動金利のどちらを選ぶのが得策なのだろう――。
固定金利がさらに上昇する可能性が高いとなると、短期的には変動金利型の人気が一段と高まりそう。ただ、住宅ローンは返済期間が20年、30年と長い。長期的にみると、将来的に日銀が異次元の金融緩和の見直しに踏み切れば、短期金利に連動する変動金利型住宅ローンの金利も大きく上昇する恐れがある。
変動金利は文字どおり、返済期間中であっても市場の動向で金利が上がったり下がったり、金利が変動する。固定金利型であれば、借り入れた時の金利で変動しない。
そもそも、バブル崩壊後の30年以上にわたり、変動するはずの変動金利型住宅ローンの金利が日銀のゼロ金利政策の「おかげ」で変動しなかった。
したがって結果的に、変動金利型を選んだ人は金利負担が少なくて済んできたが、今後は右肩上がりで増えていく可能性がゼロではない。
そう考えると、変動金利型より当面の金利負担はかかるものの、金利の上昇が予想される局面では、固定金利型の住宅ローンを組むのに適したタイミングといえなくもない。
下がらないマンション価格、金利上昇とインバウンド需要で買えない?
その一方で、首都圏のマンション価格は高止まりしている。
一般社団法人 不動産協会が公表している「新築マンション1戸当たり平均価格の推移」によると、首都圏のマンション価格は、2022年の平均価格は6288万円で、前年比0.4%の上昇だった。18年の平均価格が5871万円だったので、5年間で7.1%の上昇だ。
中古マンションの平均価格も同様の動きをみせる。
公益財団法人 東日本不動産流通機構(レインズ)が公表している首都圏の中古マンションの平均価格は、新築よりもさらに大きく上昇。2022年の平均価格は4276万円で前年比10.5%も上がり、18年の平均価格3333万円から28.3%と3割近い上昇となっている。
高値が続くマンション市場で、このまま住宅ローンの金利が引き上がっていくとなると、消費者はますます手が出しづらくなる。
仮に、これまでは頭金がほとんどなくても、金利の低い変動金利型住宅ローンを組んで、返済期間を延ばすことができれば、多少無理してでも希望する物件を購入できた。
しかし、今後は金利負担が増えることで、希望購入価格を下げなければならなくなる。これまで手が届くと思われた、希望する物件が買えなくなるわけだ。
また、希望購入価格を下げてでも買える物件があればいいが、コロナ禍が明けて、再びインバウンド需要が旺盛になれば、物件価格が下がらない可能性もないとはいえない。
物価は上昇、給料はそれを上回ることなく伸び悩み。いま、金利が上がるからといって焦ってマンションを買おうという気にはならないし、そもそも「賃貸で十分」と考える人は一定程度いる。マンション価値が値崩れを起こす場面はあるのだろうか――。