SAAIに行けば、「元気になる、やる気になる」と思ってもらえるか
――だから人であり、リアルな場の熱量を一番に考えているのですね。MSDやSAAI、microの運営自体が新規事業でもあると思うのですが、三菱地所側の責任者として牧さんが抜擢されたのはなぜでしょう?
牧さん 自分で言うのもあれですが、私、紆余曲折系の人生でして(笑)。
もともと新卒では、別の総合デベロッパーに入社しました。ここでは、社内新規事業として会員制サテライトオフィス事業を立ち上げました。
そして3年間勤めて退職し、「青い鳥」を探しに世界放浪に出かけたんです。1年ほど海外をまわっているうち、縁があって。たどりついたのがイタリアでした。それから3年間はミラノで、日本をコンセプトにした複合商業施設「TENOHA MILANO(テノハミラノ)」の開発、運営を法人設立から手掛けました。今では年間84万人ほどご来場いただける施設に成長しています。そこで、「ライフスタイルショップ」や「カフェ・レストラン」、「シェアオフィス・コワーキング」、「ポップアップスペース」、「イベントスペース」、「ラーメン店」など6セグメントを自社で経営・運営していた経験が、SAAIやmicroと非常に親和性高く活かされていると思います。
2020年2月に帰国して、三菱地所に入社したのも、MSDの総合プロデューサー(「丸の内朝大学」などの仕掛け人、プロジェクトデザイナー・古田秘馬氏)とのご縁からなんですよね。秘馬さんとは、イタリア時代に知り合いまして。日本に帰国しようと思っていた矢先に、「亮平、いま有楽町が面白いんだよ」と誘われました。なにごとも人のご縁ですね。
――牧さん自身も、SAAI会員のようにめぐり合わせで今の仕事にたどりついたのですね。
当然ながらミラノと日本、あるいは施設の目的に応じて勝手がちがう側面もあったと思います。SAAIをオープンしてから最も苦労したことは何でしたか?
牧さん 場の熱量です。それが「あの場に行けば元気になる、やる気になる」と思わせる理由になると思うのですが、熱量の発生、維持、最大化には最低限の頭数が必要になります。
300坪あるSAAIなら、最低50~60人は必要です。ところが、SAAIのオープンは2020年2月。ただでさえ、SAAIは紹介を通じてコツコツ会員を集めるビジネスモデルなのに、新型コロナ禍の直撃を受けてしまいました。
オープニングのレセプションパーティーも、メディア内覧会も中止。当初は、会員1人につき運営側が1人ついてずっと壁打ちをしているような、too muchな時期がありました(笑)。
――現在の会員数は約400名とのことですが、会員同士の交流を促すようなことも運営側が担うのでしょうか?
牧さん そこは会員同士の自発性に委ねています。先ほど申し上げた通り、ここには、誰かとつながりたい、このコミュニティで何かしたいという意識が高い会員さんが集まっているからです。
入会の際には、運営チームのコミュニティディレクターと1on1で30分間の面談をルール化し、人となりや、コミュニティに求めるものをヒアリングしています。そこで「合わないな」と思う方は離脱されますし、ただ場所として使いたいという方は、こちらからお断りをすることもあります。熱量あるコミュニティの場を保つためにバランス感覚、舵取りを意識しています。
事業創造コミュニティとしての、場づくりはソフト・ハード面でそれぞれどうなっているのか――。<人、文化、芸術、情報が飛び交う「有楽町」で、次々に新しい事業が生まれるのはなぜか?【後編】/三菱地所の会員性ワーキングコミュニティ「SAAI」マネージャー・牧亮平さん>に続きます。
【プロフィール】
牧 亮平(まき・りょうへい)
三菱地所株式会社
プロジェクト開発部 有楽町街づくり推進室 マネージャー
新卒で東急不動産株式会社へ入社。社内新規事業として会員制サテライトオフィス事業「Business-Airport」の立ち上げを行う。同社退職後、一年間の海外修行を経て、SAYU MILANO S.R.L. 取締役(現地代表)へ就任。イタリアミラノで日本をコンセプトとした複合商業施設「TENOHA MILANO」の開発、運営を行う。2020年2月に帰国し、三菱地所株式会社へ入社。現在、有楽町の再開発を担当し、会員制インキュベーションオフィス「SAAI」や複合商業施設「micro」を起点としたソフト面からの街づくりを行っている。座右の銘は「すべては人から始まる」でハードやシステムよりもそこにいるリアルな「人」を大事にしたい。