次々に新しい事業が立ち上がる「場」は、いかにして生まれたか?【前編】/三菱地所の会員制ワーキングコミュニティ「SAAI」マネージャー・牧亮平さん

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   リアルな場の熱量は、そこに集う人から生まれる――。三菱地所が仕掛ける、有楽町の会員制ワーキングコミュニティ「有楽町『SAAI』 Wonder Working Community」(以下、SAAI)から次々に事業が創出されている。

   2020年2月、コロナ禍のオープンから会員数は右肩上がりに増加し、3年強で約400名に。この場所から熱を伝播させ、大手の飲料、電機メーカー、製薬会社などの大企業新規事業担当者およびスタートアップ、個人事業主などの「異能」同士の出会い、コラボレーションを送り出してきた。

   いま都心部にはワーカー向けオフィスや施設が数多くある中で、これほど勢いよく成長を描いてこられたのはなぜか。

   SAAIを運営する三菱地所 プロジェクト開発部 有楽町街づくり推進室 マネージャーの牧亮平(まき・りょうへい)さんに、約3年半にわたる取り組みと今後描く姿を詳しく聞いた。

  • 三菱地所 プロジェクト開発部 有楽町街づくり推進室 マネージャーの牧亮平さん。前職ではイタリア・ミラノの複合施設「TENOHA MILANO」の法人設立を手掛けた異色のキャリア
    三菱地所 プロジェクト開発部 有楽町街づくり推進室 マネージャーの牧亮平さん。前職ではイタリア・ミラノの複合施設「TENOHA MILANO」の法人設立を手掛けた異色のキャリア
  • 三菱地所 プロジェクト開発部 有楽町街づくり推進室 マネージャーの牧亮平さん。前職ではイタリア・ミラノの複合施設「TENOHA MILANO」の法人設立を手掛けた異色のキャリア

「場の熱量を生む」最初の50人をどう集めるか? 有楽町発の「事業創造コミュニティ」!

――本日、おじゃましているSAAIは、会員の方たちも早朝からお仕事をされていて、にぎわっていますね。今回は事業を生み出すためのコミュニティとは何か、SAAIがなぜそのような場になっているかを紐解いていきたいです。
SAAIは、三菱地所と事業創造の分野で支援実績を持つコーポレートアクセラレーターのゼロワンブースター(以下、ゼロワン)との共同運営ですけれども、まずはSAAIの現在の成果からうかがえますか。

牧亮平さん 直近のわかりやすい例でいうと、資金調達をする会員が増えています。2023年4月にはグルメプラットフォームを運営するテーブルクロス、AIと専門家を掛け合わせた新しいかたちの会計事務所SoVa、核融合スタートアップHelical Fusionなどがそれぞれ資金調達し、合計調達額は14億円規模にまでなりました。背景として、SAAI会員向けに毎月1回10社くらいのベンチャーキャピタル(VC)を呼んで、カジュアルに相談できる「VC Day」というのを企画していて、それが実を結んでいるというのもあります。

あとは、有名ピッチコンテストで優勝した会員や、事業拡大に伴いSAAIを卒業していった会社も多いです。大企業の社内ベンチャーがSAAIから立ち上がったケースもあります。東京都の女性ベンチャー育成事業をゼロワンが運営していることから、毎年約30名の女性起業家がSAAIに入ってきてくれるのも刺激的ですね。

ただし、私たちが一番大事にしているのは、資金調達の額などわかりやすい定量的な部分よりも、SAAIの会員のみなさんの熱量や気持ちの部分です。 それは、SAAIは場所貸しのビジネスではなく、「街の輝きは人がつくる」をコンセプトにした有楽町再構築に向けた先導プロジェクト「有楽町『Micro STARs Dev.』」(マイクロスターズディベロップメント/以下、MSD)から始まった新しいアイデアを生み出す施設であり、事業を創造するための「コミュニティ」だからです。
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SAAIの内観。歴史のある有楽町らしく、リノベーション前の空間を生かしつつ、照明は自転車のスポークを利用するなど遊び心がある

――「熱量」の高い会員はどうやって集めているのでしょうか?

牧さん 現在の会員数は約400名。そのうち、約8割が既存会員からの紹介です。SAAIがいいものであれば人にすすめたくなり、逆に心地よくないものであれば人にはすすめないですよね。紹介の多さは、それだけ高い評価をいただいている証拠だと考えます。

ちなみに、オープン当初は広告を打ったこともありますが、「JR有楽町駅から徒歩1分です、月額2.5万円です」という売り方をすると、ただの場所貸しになり、我々が望むコミュニティは生まれにくい。

そうなると、そもそも広告の文言を考えるのも難しいわけです。いいコミュニティをつくり、そのコミュニティを気に入ってくれた方々の紹介を通じてコミュニティが広がっていく――。そんな戦略がMSDの「街の輝きは人がつくる」というコンセプトにあるように、SAAIにはふさわしいですね。

――有楽町再構築に向けたMSDのお話がありましたが、その中でSAAIはどのような役割を担っているのでしょうか?

牧さん 少し長くなりますが、プロジェクトの背景からお話ししますね。

MSDは、簡単に言うと、「スター誕生の仕組みづくり」。有楽町という街から次世代を担う新しいスターとなるような人やモノ、サービスなどを生んでいくプロジェクトです。

古いビルが多い有楽町ですが、再開発のビルの建て替えるとなると数十年というスパンを要します。そうした再開発の先導事業として、まずソフト面のまちづくりを行うためMSDは立ち上がりました。

スター誕生のためのステップとして、私たちは「アイデアが生まれる場所」と「アイデアが磨かれる場所」、「アイデアが試される場所」の3つが必要だと考えました。これらが、生まれたアイデアがテストマーケティングや実証実験を経て、社会実装されていくまでのフローを担います。

私たちが開業した2つの直営施設のうち、1つが「SAAI」で「アイデアが生まれる場所」にあたり、スタートアップ企業や起業を目指す多くの人々が集まっています。

もう1つが、隣の有楽町ビル1階の「アイデアが磨かれる場所」にあたる「有楽町 micro FOOD & IDEA MARKET」(以下、micro)です。microはSAAIでカタチになったアイデアを試すところ。一般の方々の声を拾いながら、テストマーケティングを行います。

そのうえで、私たちが長年街づくりを手掛けてきた大手町、丸の内、有楽町というエリアで、アイデアを社会実装にまでもっていく。いずれは有楽町から全国各地へ、そして世界に羽ばたいていただきたい。そんな思いで本プロジェクトを推進しています。
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スターを生み、磨いていく仕組みとして、「SAAI」と「micro」がある
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SAAIの入った新有楽町ビルの向かい側にあるMicroの内観と外観
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