「米国債格下げショック!」世界株安に発展? 東京市場「トリプル安」...エコノミストが指摘「格付大手フィッチが、今バイデン政権に突きつけた刃」

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   「フィッチ・ショック」が2023年8月2日、東京株式市場を襲った。東京証券取引所で日経平均株価が大幅反落し、下げ幅は一時800円を超えた。

   急落の引き金は、米欧の大手格付け会社フィッチ・レーティングスによる、突然の米国債の格下げだった。東京市場は株・為替・債券の「トリプル安」に見舞われた。

   米国と日本経済はどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。

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12年前の「米国債格下げ」では、世界株安が発生

   フィッチの発表は8月1日夕(現地時間)、日本時間では8月2日早朝で、米国の取引は終了していた。そのため、リスク回避の売りが世界で一番早く開く東京市場に集中したからたまらない。

   「米国債格下げショック」の洗礼を受け、日経平均は一時820円以上下落。終値は前日比768円安と、今年最大の下げ幅となった。また、リスク回避のドル売り円買いの動きが加速し、ドル・円は1ドル=142円台後半に下落した。7月28日の日本銀行金融政策会合以来、ドル・円が3営業日で最大5円強円安に振れたことになる。

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東京証券取引所

   報道をまとめると、フィッチ・レーティングスは1日、米国債の格下げを発表した。長期信用格付けを最上位の「トリプルA」(AAA)から「ダブルAプラス」(AA+)に1段階引き下げた。

   発表資料に明記された理由によると、米政府の借入金上限を定めた「債務上限」をめぐり何度も繰り返される政治的混乱や、今後3年で予想される財政状況の悪化の懸念を考慮したという。

   具体的には、GDP(国内総生産)に対する政府の財政赤字の比率は、今年歳入の落ち込みを反映して6.3%と予想し、昨年の3.7%から上昇する。また、GDPに対する政府の債務残高の比率を、今年は112.9%と見込んだ。これは、コロナ前の2019年の100.1%を大きく上回るとした。

   この決定を受けて、イエレン財務長官は、「格付けの変更は恣意(しい)的で、古いデータに基づいている。世界中の投資家と米国民が知っている通り、財務省証券は世界的に見て卓越して安全な流動性資産であり、米経済は健全だ」と反論する声明を発表した。

   米国債の格下げは2011年8月、債務上限でオバマ政権と共和党がギリギリで合意した際、財政再建策が不十分だとして、格付大手のS&P(スタンダード・アンド・プアーズ)が引き下げて以来、12年ぶり2度目だ。

   当時は金融市場が動揺し、世界的な株安となった。今回も金融市場に影響を与えるのだろうか。

米政府の財政悪化はまさにその通り...だが今なぜ「格下げ」を?

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ニューヨーク証券取引所

   こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。

   日本経済新聞オンライン版(8月2日付)「フィッチ、米国債を格下げ 財務長官『恣意的』と反論」という記事に付くThink欄の「ひとくち解説コーナー」では、BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈氏が、

「なぜ今?フィッチが言うように、今後3年間で財政悪化が予想されることはまさにその通り。CBO(米議会予算局)が先日発表した長期見通しでは、米国公的債務は2053年にGDP比181%に達する。債務上限問題は6月頭に2025年1月まで凍結の合意となっているが、2024年11月新大統領が選ばれたばかりの状況で、おそらく政治的な交渉に手間取るであろうことが容易に想像される」

   と解説。それでも、

「こうした想像から米国の債務状況に懸念が残るのは確か。だが、債務上限問題が引き上げられたばかりで、中長期の見通しを客観的に予期する術を持ち、かつ政治的なリスクが特段高まっているわけでもないように見える今の格下げはタイミングとしては腑に落ちない」

   と疑問を投げかけた。

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バイデン米大統領(ホワイトハウス公式サイトより)

   一方、ヤフーニュースコメント欄では、米州住友商事ワシントン事務所調査部長の渡辺亮司氏が、急な格下げの背景について、

「フィッチは格下げ理由に、今後3年間の財政状況の悪化や政府債務の負担拡大に加え、債務上限引き上げを巡る政治対立が財政運営への信頼を弱めている点を挙げた。前回、格付け機関が米国債を格下げしたのは2011年。当時、S&Pが史上初めて米国債を格下げした。その際も格下げ理由の1つに債務上限引き上げを巡る政治リスクの高まりが挙げられていた」

   と指摘。つづけて、

「今回のフィッチによる格下げが米政治に警鐘を鳴らすこととなり、両党が財政をめぐり歩み寄るのが理想。だが、そのようにならない可能性のほうが高い。大統領が民主党出身の場合、共和党保守強硬派が民主党政権と交渉ツールとして有効的であるのが、債務上限引き上げや政府閉鎖。各政党の議員数が上下両院で拮抗し、二極化が進む今日、債務問題などの政治リスクは当面解消されない見通し」

   と、債務上限問題は「米国病だ」とさじを投げたかっこうだ。

世界金融市場を揺るがす問題を問う、フィッチの英断に拍手

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米国経済はどうなるのか(写真はイメージ)

   一方、重大な金融危機に発展するリスクに言及するのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「フィッチが米国債を格下げ」(8月2日付)のなかで、フィッチがこの時期にあえて格下げをした意図と、その影響をこう説明する。

「世界で最も規模が大きく流動性が高い安全資産であり、世界の金利のベースともなる米国債の格付けが引き下げられたことの意味は大きく、米国資産全体の信頼性低下につながるリスクがある。仮にこれをきっかけに、ドル安が進めば、日本市場では円高・株安傾向が強まり、経済への悪影響も生じ得るだろう」
「フィッチは格下げの理由として、『財政、債務問題を含め、過去20年間にわたりガバナンスが悪化している。度重なる債務上限問題の政治的行き詰まりと土壇場での解決は、財政管理への信頼を損なった』『高齢化に伴う社会保障費の増加など中期的課題への取り組みが限定的』などと説明している。5月に高まった債務上限引き上げ問題での政治混乱と中期的な財政悪化の2つの要因が、格下げの理由ということだろう」
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米連邦議会議事堂

   そして、バイデン政権の責任について、こう指摘する。

「米国では、2020年のコロナショック以降に実施された財政拡張策が、昨年来の歴史的物価高騰につながった、との指摘がある。しかし、中国への対抗や気候変動への対抗、低所得者支援などを強く意識するバイデン政権は、十分な財政健全化策を講じてこなかった。
そのもとで、連邦財政赤字のGDP比率は、2022年の3.7%から2025年には6.9%まで増加する、とフィッチは見込んでいるのだ。
こうしたもと、物価高対策は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに強く依存する形となった。しかしそれは、金融市場そして経済にも過大なストレスをかけることになる。この点から、バイデン政権は経済、金融の安定の観点からも、より財政緊縮策を進めることが求められるところだ」

   そして、今回の格下げの意義をこう説明する。

「債務上限を巡る米国での政治混乱が、世界の金融市場を揺るがしてきた問題を問うという点に加え、バイデン政権に財政緊縮を促すという点からも、今回のフィッチの米国債格下げは評価できる面があるだろう」

(福田和郎)

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