世界金融市場を揺るがす問題を問う、フィッチの英断に拍手
一方、重大な金融危機に発展するリスクに言及するのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「フィッチが米国債を格下げ」(8月2日付)のなかで、フィッチがこの時期にあえて格下げをした意図と、その影響をこう説明する。
「世界で最も規模が大きく流動性が高い安全資産であり、世界の金利のベースともなる米国債の格付けが引き下げられたことの意味は大きく、米国資産全体の信頼性低下につながるリスクがある。仮にこれをきっかけに、ドル安が進めば、日本市場では円高・株安傾向が強まり、経済への悪影響も生じ得るだろう」
「フィッチは格下げの理由として、『財政、債務問題を含め、過去20年間にわたりガバナンスが悪化している。度重なる債務上限問題の政治的行き詰まりと土壇場での解決は、財政管理への信頼を損なった』『高齢化に伴う社会保障費の増加など中期的課題への取り組みが限定的』などと説明している。5月に高まった債務上限引き上げ問題での政治混乱と中期的な財政悪化の2つの要因が、格下げの理由ということだろう」
そして、バイデン政権の責任について、こう指摘する。
「米国では、2020年のコロナショック以降に実施された財政拡張策が、昨年来の歴史的物価高騰につながった、との指摘がある。しかし、中国への対抗や気候変動への対抗、低所得者支援などを強く意識するバイデン政権は、十分な財政健全化策を講じてこなかった。
そのもとで、連邦財政赤字のGDP比率は、2022年の3.7%から2025年には6.9%まで増加する、とフィッチは見込んでいるのだ。
こうしたもと、物価高対策は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに強く依存する形となった。しかしそれは、金融市場そして経済にも過大なストレスをかけることになる。この点から、バイデン政権は経済、金融の安定の観点からも、より財政緊縮策を進めることが求められるところだ」
そして、今回の格下げの意義をこう説明する。
「債務上限を巡る米国での政治混乱が、世界の金融市場を揺るがしてきた問題を問うという点に加え、バイデン政権に財政緊縮を促すという点からも、今回のフィッチの米国債格下げは評価できる面があるだろう」
(福田和郎)