米政府の財政悪化はまさにその通り...だが今なぜ「格下げ」を?
こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。
日本経済新聞オンライン版(8月2日付)「フィッチ、米国債を格下げ 財務長官『恣意的』と反論」という記事に付くThink欄の「ひとくち解説コーナー」では、BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈氏が、
「なぜ今?フィッチが言うように、今後3年間で財政悪化が予想されることはまさにその通り。CBO(米議会予算局)が先日発表した長期見通しでは、米国公的債務は2053年にGDP比181%に達する。債務上限問題は6月頭に2025年1月まで凍結の合意となっているが、2024年11月新大統領が選ばれたばかりの状況で、おそらく政治的な交渉に手間取るであろうことが容易に想像される」
と解説。それでも、
「こうした想像から米国の債務状況に懸念が残るのは確か。だが、債務上限問題が引き上げられたばかりで、中長期の見通しを客観的に予期する術を持ち、かつ政治的なリスクが特段高まっているわけでもないように見える今の格下げはタイミングとしては腑に落ちない」
と疑問を投げかけた。
一方、ヤフーニュースコメント欄では、米州住友商事ワシントン事務所調査部長の渡辺亮司氏が、急な格下げの背景について、
「フィッチは格下げ理由に、今後3年間の財政状況の悪化や政府債務の負担拡大に加え、債務上限引き上げを巡る政治対立が財政運営への信頼を弱めている点を挙げた。前回、格付け機関が米国債を格下げしたのは2011年。当時、S&Pが史上初めて米国債を格下げした。その際も格下げ理由の1つに債務上限引き上げを巡る政治リスクの高まりが挙げられていた」
と指摘。つづけて、
「今回のフィッチによる格下げが米政治に警鐘を鳴らすこととなり、両党が財政をめぐり歩み寄るのが理想。だが、そのようにならない可能性のほうが高い。大統領が民主党出身の場合、共和党保守強硬派が民主党政権と交渉ツールとして有効的であるのが、債務上限引き上げや政府閉鎖。各政党の議員数が上下両院で拮抗し、二極化が進む今日、債務問題などの政治リスクは当面解消されない見通し」
と、債務上限問題は「米国病だ」とさじを投げたかっこうだ。