国家公務員を志す若者の減少に、歯止めがかからない。2023年度の採用試験のうち、総合職の申込者が過去2番目に低い数字になった。いったい、なぜ敬遠されるのか。
そんななか、転職のためのジョブマーケット・プラットフォーム「OpenWork」を運営するオープンワーク(東京都渋谷区)が2023年7月26日、「国家公務員の働き方 10年レポート」を発表した。民間企業と比べた国家公務員の働き方を、当事者のクチコミから10年間追跡したリポートだ。
「霞が関離れ」の原因はどこにあるのか。また、各中央省庁の人気・不人気ランキングから見えてくるものは?
10年前に比べ、「働き方の評価」が民間企業と逆転
「OpenWork」は、社会人の会員ユーザーが自分の勤め先の企業や官庁など職場の情報を投稿する国内最大規模のクチコミサイト。会員数は約575万人(2023年6月時点)という。
「OpenWork」では、企業の評価を「待遇面の満足度」「社員の士気」「風通しの良さ」「人事評価の適正感」など8つの指標を5段階で評価している。今回の調査では、日本全体の「働き方改革」を推進する国家公務員の働き方に注目。10年前の2014年と2023年現在のデータを民間企業と比較した。
「人事院」の発表によると、2023年度春の国家公務員総合職試験の申込者数は過去2番目に少ない1万4372人で、昨年度(2022年度)の申込者数1万5330人から大幅に減った。
特に象徴的なのは、大学別の合格数で東京大学が過去最も少ない193人で、この10年間で約半分になったことだ。
国の中枢を担う国家公務員総合職、いわゆる「キャリア官僚」は、かつては東大生の就職先の代名詞と言われたものだが、長時間労働や国会対応といった「不合理な働き方」から忌避される傾向がある。
10年前と現在を比較し、どこに問題があるのか――。
【図表1】は、官公庁と民間企業(日本全体)の2014年と2023年時点での、8つの評価項目のスコア比較だ(各項目5点満点)。
これを見ると、10年前は民間企業より高かった官公庁の2023年の総合スコアが2.91となり、民間企業(3.05)より低くなったばかりか、2014年より0.26ポイント下がっていることがわかる(民間企業は横ばい)。この10年間で、国家公務員の働き方の評価が、民間企業と逆転してしまったわけだ。
民間企業と比べ、官公庁業界は「法令順守意識」が高いものの、「20代成長環境」「社員の士気」「人材の長期育成」「人事評価の適正感」風通しの良さ」のスコアが、10年前から大きく悪化したことがわかる【再び図表1】。
一方、民間企業で大きく悪化したのは「20代成長環境」(マイナス0.44)だけだ。残業時間と有休消化率に関しては、働き方改革に牽引された結果か、民間企業と官公庁の間であまり差がみられない。この結果から、「働きやすさ」と「働きがい」は比例しないことがわかる。
経済産業省と環境省の「風通しの良さ」と「社員の士気」は、ダントツ
では、なぜ国家公務員に「働きがい」が感じられなくなってしまったのか。
【図表2】は国の中枢を担う1府11省をピックアップし、2023年7月時点での8つの評価項目を分析したスコアだ。1府11省とは、内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省だ。
これを見ると、総合評価で官公庁平均(3.05)を上回ったのは経済産業省(3.52)、財務省(3.17)、環境省(3.16)、防衛省(3.11)の4省だけとなった。
政府の中核である内閣府(2.79)が最下位という結果になったのは、各省庁からの出向が多いためだろうか。「人材の長期育成」と「社員の相互尊重」のスコアが特に悪い。
目立つのは、経済産業省と環境省の「風通しの良さ」と「社員の士気」が群を抜いて高いことだ。「風通しの良さ」に関しては11省中8省府が2点台と低いなか、両省は4点超えの高さだ。
また、「社員の士気」に関しても、両省だけが3点を超えている。いったいどういう点が高い評価につながっているのか。総合評価トップスリーのクチコミを見ると――。
経済産業省「若手を育てようという文化があるので、社会人としての基礎力はかなり鍛えられる。文章の書き方、根回しのコツ、論理的思考力などは徹底的に教わったので、これは霞か関以外の職場でも財産になると思う」(総合職、女性)
経済産業省「国際的な業務に携わることも多々あるので、日本のために仕事をしていると感じる。他機関への出向や留学を経て、外部の知見も得ながら成長できるので、そういった環境をうまく使ってキャリア形成を図ることもできる」(事務、男性)
経済産業省「他省庁に比べると、新しい領域への感度が高く、それを自負している感もある。他省庁の既存領域で新たなビジネスや技術課題が生じた場合に、事業者側の目線で規制緩和などを働きかけていく。テレワークなどもコロナ前から可能だったなど、先進的ではある」(総合職、男性)
環境省「役職が下の者でも、幹部と顔の見える関係で議論できる風土がある。新しいこと、前例のないことをやろうとする風土もある。また、優しい人が多いと思う」(事務、男性)
環境省「風通しがよく、若いうちからさまざまな業務に携わることができます。他省庁と比べ少人数であることから、1年目から大臣室に入ることができるなど、そのような点は魅力的なところかと思います」(総合職、男性)
環境省「穏やかな人が多く、風通しが非常によい。若手職員の意見も積極的に取り入れてくれる。以前は若手職員と大臣とのフリーディスカッションをよくやっていた」(係長、男性)
財務省「幅広い分野の研修が定期的に実施され、受講しやすい雰囲気があるため、自分次第でいくらでも成長できると思う。組織としては出向を推している雰囲気もあり、特に若手への本省や他機関への出向を推進している」(事務、女性)
若手の成長を歓迎するフラットな文化、霞が関以外でも通用しそうなスキル、自省以外の交流を重視する風土を挙げる声が多かった。
「士気が高い職員に仕事が集中するため、優秀な者ほど辞めていく」
一方で、「人材の長期育成」「人事評価の適正感」「待遇面の満足度」のスコア、いわゆる人事・評価制度の面では、1府11省はどこも3点未満で、共通課題であるといえる。各省のクチコミから問題点を見ると――。
「とにかく年功序列である。細かい資料まで上に見せて直す必要があり、深夜まで対応が及ぶこともしばしばある」(事務職、男性)
「国会対応などの雑務に忙殺されて本命業務が滞ったり、形骸化した文書の書き方などで決裁を差し止められたり、無駄な業務が多いです。(自分の省では)紙文化が根強く、打ち合わせをする際にも他省庁と比べて電子化しているものが少ない」(係員、女性)
「どこの公務員も同じだが、どれだけ頑張ってもあまり給与は変わらず、さぼればさぼるほど効率的に給与がもらえるので、いわば職員の気概やモラルだけで成り立っている。士気が高い職員に仕事が集中するため、優秀な者ほど失望して辞めていく、という悪循環となっている」(係長、男性)
「優秀な者に業務が集中する一方で、ほとんど業務をしていない者でも一定程度の評価となり、不公平感を感じることは多い。手間がかかっている割に人事評価制度がうまく機能しているように思えない」(一般、男性)
「年功序列のため、どれだけやる気があっても、周りと差がつくほどの出世はできない。半年に一度、所属課長による期末面談が実施され、その結果に基づいて評価を得られるが、ほとんどが似たような評価になり、あまり差がでない」(事務官、男性)
こういった案配で、国会対応や紙文化などの独自のルール、加えて年功序列を指摘する声が多い。「優秀な人や士気がある人ほどしわ寄せがいく」という不満の意見が聞かれた。結果的に報われない徒労感に陥っている様子が各府省問わず散見された。
「パフォーマンスのAI導入より、まずハンコ文化の廃止を」
ではどうすれば、国家公務員人気の復活が果たせるだろうか。最後に、各省のクチコミから、魂の叫びを聞くと――。
経済産業省「国家公務員の不人気化による地盤沈下が進んでいて、総合職の試験がスクリーニング(選別)として役に立っていない気がする。経産省はその中でも選り好んで採用しているが、そろそろ限界がくるのでは。国全体として公務員への投資を考えるべき」(課長補佐、男性)
財務省「世界最先端を目指すには、まずAI導入より、あまりに遅すぎるインターネット回線速度、ハンコ文化の廃止、人事関係手続き書類の電子化など、すぐにでも取りかかれることはいくらでもあります。パフォーマンスのための取り組みばかりに手を出すのではなく、真に業務を高度化・効率化するために効果的な施策を検討していただきたいです」(行政事務、男性)
厚生労働省「特に勉強の時間確保が難しいことに危機感を持っている。社会から批判され続け、日々の業務で疲弊した中、時間を惜しんで勉強する意欲を保ち続けられる人などほとんどいない。余裕があれば、自ら創意工夫で勉強したいと思うだろう。少なくともこの職場の職員は、就職前の学生の時点でそうした意欲を持っていたことが認められて、就職選考に合格したはずである」(課長補佐、男性)
各省庁は、国家公務員たちの初心を失わせることなく、大いに伸ばす文化・風土であってほしいものだ。国民のためにも切に願う。
調査は、2014年1月?12月と2023年1~7月の期間にOpenWorkに投稿された現職公務員と民間企業社員による回答を元に集計した。(官公庁業界は1057件、民間企業全体は4万5815件)。
なお、中央省庁では復興庁とデジタル庁は回答数が10件未満のため掲載しなかった。(福田和郎)