資金繰りが深刻...ダイヤモンド「楽天解体寸前」、東洋経済「台湾リスク」、エコノミスト「日本株」を特集

   「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。

解体のカウントダウンなのか?

   2023年7月31日発売の「週刊ダイヤモンド」(2023年8月5日号)の特集は、「楽天解体寸前」。携帯電話事業の巨額な赤字によって資金繰りが深刻になり、楽天市場や楽天カードを含む本業の切り売りに追い込まれるカウントダウンが始まったというのだ。

   米格付け会社のS&Pグローバルによると、楽天の格付けは投資不適格級の「ダブルB」で、国内で追加の社債調達は難しいと見られる。今後5年で1兆2000億円を超える大量の社債返還を迎えるという。

   最初のヤマ場は24年6月の普通社債2本、計300億円の償還はクリアしたとしても、同年11~12月に迎えるドル建て社債と普通社債の計3200億円(1ドル=140円換算)が最大の壁になる、と指摘している。

   この「24年11月」のタイムリミットに向けて楽天は、資産売却を加速させることになりそうだ、と予想する。

   売却の候補として挙げているのは、すでに上場申請した楽天証券HDの株式に加え、金融事業の稼ぎ頭の楽天カード。このほか、電子書籍サービスの「Kobo(コボ)」など、楽天グループ本体傘下でインターネット事業を展開する海外子会社だ。

   取引銀行が注目するのは「実質的な債務超過」のリスクだ。

   楽天モバイルの累積赤字が、親会社の楽天単体の自己資本を上回るリスクがあるという。銀行からの借り入れで社債償還の危機を乗り越えても、抜本的な資本増強の策がなければ一段の資産売却を迫られる、と見ている。

   日本郵政と楽天グループとの業務提携も、郵政側にメリットのない一方的なものだった、と批判している。日本郵政は6月30日、1500億円の出資で取得した楽天グループの株式を減損処理し、2023年4~6月期に850億円の特別損失を計上すると発表した。

   一方、楽天にとってのメリットは大きかった。楽天から日本郵便に不採算の物流センターを移管したことで、「国内EC事業全体」の営業利益率は11.4%に跳ね上がった。

   携帯電話事業の巨額赤字にあえぐ楽天の中で、高い収益性を誇る楽天市場の市場価値はますます高まり、誰もが欲しがる格好の売却候補として、注目を浴びているという。

◆セブン-イレブンの死角とは

   もう1つ注目したのは、第3特集の「セブンの死角 伊藤忠&三菱商事の逆襲」だ。コンビニの王者、セブン-イレブンは出店増と食品の開発という従来の戦略でインフレなどの変化を乗り切ろうとしているが、そこに落とし穴がある、と指摘している。

   セブン-イレブンの強みを支えてきたのが、サンドイッチや弁当などを作る中食ベンダーの存在だという。しかし、工場の人手不足や人件費高騰により、利益が低くなっているという。

   また、コロナ禍を機に外食店が弁当の販売を始め、コンビニとの競合が増えている。競合のほとんどは常温弁当なのに、大量生産・長距離輸送のコンビにはチルド弁当を増やさざるを得ず、味と価格で優位性を出しづらくなっている。

   これまで横綱相撲だったセブン-イレブンに対し、新しい土俵で戦おうとしているのが、総合商社を親会社とするファミマとローソンだ。

   ファミマは伊藤忠商事と店内のディスプレーなどへの広告配信を本格化。5年後に100億円の利益計上を目指す。ローソンは三菱商事とインターネット販売を強化中で、売上高を1割以上増やそうとしているという。

   セブン-イレブンが「何を売るか」という従来の土俵で勝負しているのに対し、他の2社は「どう売るか」という別の競争軸を立て、経営資源をシフトしているという分析は興味深い。

台湾有事のリスク検討を

   「週刊東洋経済」(2023年8月5日号)の特集は「迫る『有事』の全シナリオ 台湾リスク」。中台関係の緊張が続き、軍事衝突が起きる「有事」となれば、日本経済は壊滅的な打撃を受けると警告している。

   「世界の工場」中国は、日本企業にとって重要な生産基盤だ。中国には、10万人の邦人がいるが、「有事」の場合、中国脱出は現実的に無理だという。

   台湾有事とは何か。台湾をめぐる危ういバランスについて解説している。台湾有事としてよく議論されている事態は主に3つあるという。

   最も深刻な1つ目は、中国による台湾への全面侵攻だ。台湾の武力統一、台湾全土を支配し新たな統治体制を樹立することを目的とする。しかし、実行するのは中国にとって極めてハードルが高いという。

   確実に武力統一を遂行する能力を中国は持っておらず、米国との全面戦争につながるリスクは避けたい。今後も台米日が有事に備えている限り、実施される可能性は低いと見ている。

   2つ目は、台湾近海の海上封鎖だ。しかし、海上封鎖は国際法違反であり、戦争行為に当たり、国際社会からの批判や介入の可能性が高く、中国にとって容易な選択肢ではないという。

   3つ目は、台湾が実効支配している島々に威嚇のために中国が侵攻するというものだ。しかし、中国にとってメリットはない。

   中国に台湾武力統一はできないと思わせ続けられるかが重要で、中国に毅然と向かい合うことが必要だという。

   アンダーソン・毛利・友常法律事務所の横井傑弁護士が、企業トップが知るべき、危機管理と法的リスクについて解説している。台湾に拠点がある場合、中国大陸に拠点がある場合、台湾・中国大陸に、取引先またはサプライチェーン上の企業がある場合の3つに大別して、それぞれのリスクへの対応を説明している。

   つねに意識的な情報収集とリスクの見直しを行い、両岸関係を正確に捉えることが大切なようだ。

   野村総合研究所主席研究員、チーフエコノミストのリチャード・クー氏は、「バランスシート不況の中国に台湾に侵攻する余裕はない」としながらも、万が一の場合の準備、駐在員などが大陸からどうやって退避できるか、備えておく必要はあるとアドバイスしている。

日本株は上がる! 日経平均株価4万円から5万円台も?

   「週刊エコノミスト」(2023年8月8日号)の特集は、「まだ上がる 日本株」。日本経済を苦しめ続けた円高デフレが終わり、円安と同時に進むインフレ、好調な企業収益、賃上げ機運の盛り上がりによるものだ。さらに、来年から始まる新NISAも加え、日本株の大復活の条件は整った、と見ている。

   武者リサーチ代表の武者陵司氏は、企業や年金・保険、外国人、個人などすべての投資主体が株式買いに回らざるを得ない時が来ているとし、日本株の上昇を期待。年末に日経平均株価は1989年末の最高値を超えて4万円をつけても不思議ではないという。

   新NISAが始まる来年末には5万円を予想。「4万円でも5万円でも、0.4%の国債利回りやほぼゼロの預金金利との比較でみれば、株式は超割安なままである」。

   マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏も、好調な企業業績や金融緩和継続など株価が上がる条件はそろっており、自然体で株高の流れにある、と見ている。日経平均は年度末に4万円の大台を超えると予想している。

   「元本割れリスク」がほぼない投資法について、ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏がアドバイスしている。配当利回りが4%超のメガバンク株に投資し、25年間保有すれば元本を回収できるという。新NISAを活用し、配当金や分配金を定期的に受け取る「雌鶏投資」と名付けている。

   エコノミストのエミン・ユルマズ氏は、外国人投資家が狙うのは、メガバンクと半導体。その次は「防衛銘柄」と言っても、「食料安全保障」が強く意識されるので、ニッスイや山崎製パンなどの食品大手と予想している。

   「新冷戦」が始まった今、グローバルマネーは中露を避け、日本株に舞い戻っているというのだ。25年までに、日経平均は5万円も達すると見ている。

   昨年までビジネス3誌には、米国株、世界株への投資を勧める記事が多かったが、潮目は変わったようだ。(渡辺淳悦)

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