巨大IT企業への課税強化する「デジタル課税」、OECDが条約案 2025年の発効へ、各国の利害も錯綜...焦点は米国の動向

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   巨大IT企業への課税を強化する「デジタル課税」実現にむけ、大きく前進した。

   協議を主導してきた経済協力開発機構(OECD)が2023年7月12日、日本を含む約140の国・地域で議論してきた、新しい国際課税の多国間条約の大枠を発表した。

   国内に支店など事業拠点がなくても、国境を越えてデジタルサービスを提供する多国籍企業への課税を認めるのが柱だ。

   2023年内に署名し、2025年中の発効を目指すが、課税という「主権中の主権」にかかわり、各国の利害が錯綜するテーマだけに、想定通り進むかは予断を許さない。

  • 2025年の発効を目指す「デジタル課税」の行方は(写真はイメージ)
    2025年の発効を目指す「デジタル課税」の行方は(写真はイメージ)
  • 2025年の発効を目指す「デジタル課税」の行方は(写真はイメージ)

問題点は、「税逃れ」と、各国の税率引き下げ競争 従来ルールは「恒久的施設なくして課税なし」

   J-CAST 会社ウォッチも「多国籍企業の課税逃れ防止 GAFA抱え、米国は『デジタル課税』への一歩を踏み出せるのか!?」(2021年4月22日付)などで報じてきたように、多国籍企業への国際課税については大きく、「税逃れ」と、各国の税率引き下げ競争という2つの問題があった。

   税逃れは大企業や富裕層などのタックスヘイブン(租税回避地)を使った課税逃れなどが思い浮かぶが、特に課題になったのが、多国籍企業。なかでも、巨大IT企業への課税を強化する「デジタル課税」だった。

   企業に法人税を課す課税権は各国政府が持つが、これまでの国際ルールは1928年に定められた「恒久的施設なくして課税なし」が原則だった。しかし、グローバル化とIT化で国境を越えた経済活動が広がり、どこで、どれだけ課税するかの線引きは簡単でなくなっている。

   工場があり、製品が運ばれる製造業と違い、GAFA(グーグル、アップル、メタ=旧フェイスブック、アマゾン)など、巨大IT企業は所得の捕捉がしにくく、たとえばネットモールで、ある国の人が買い物しても、その国内には物流倉庫くらいしかなく、課税がままならない――などが指摘されてきた。

   もうひとつの法人税率は、巨大ITなどの活動の国境が曖昧化していることとも絡み、自国に企業を誘致しようという狙いで、引き下げ競争が激しくなっていた。低税率でアップルなどを誘致してきたアイルランドなどが代表例だ。

新ルールでの課税対象...売上高約2.8兆円超、利益率10%超の多国籍企業 全世界でGAFAなど100社程度か

   OECD主導の交渉で2021年秋、136か国・地域(当時、その後増えて143か国・地域)が国際課税の新ルールの創設で合意した。法人税の最低税率を15%にするのと並んで、多国籍企業の「課税逃れ」に歯止めをかけることになり、制度設計の協議を進めていた。

   今回の合意は、多国籍企業の支店や工場など物理的な拠点がなくても、サービス利用者のいる国・地域に課税を認める仕組み。利益が売上高の10%を超えた場合、超過利益の25%に課税する権利を、国・地域ごとの売上比率に応じて配分する――というものだ。

   課税対象は、売上高200億ユーロ(約2.8兆円)超で、税引き前利益率が10%超の多国籍企業。「デジタル課税」というが、米GAFAなど巨大IT企業だけでなく、製薬大手など全世界で100社程度になる見込みだ。原材料費などのコストがかさむ製造業は利益率が10%を超えにくく、対象は限定的だろう。

   日本企業では3メガバンクや通信のNTT、KDDIなど10社程度が直近の決算で条件に該当するが、実際の課税対象になるかは条約発効までに決まる。たとえば金融業は除外されるとみられ、日本勢は数社にとどまるとの見方が強い。

   デジタル課税はどの程度の規模になるのか。

   OECDは対象になる企業の利益は2000億ドル(28兆円)にのぼると試算し、税収が130億~360億ドル増え、主に、これまで課税できなかった中・低所得国が恩恵を受けるとしている。

   これとは別に、最低税率15%が徹底されると、タックスヘイブンなどでの課税逃れができなくなり、世界の法人税収は現在の9%に当たる2200億ドル(約30兆円)の税収増につながるという。

対象企業のほぼ半分は米国企業 米国の批准なしに、条約発効は望めず EUは独自課税の導入を凍結中

   実現に向けて、最大の焦点が米国の動向だ。

   トランプ政権時代には交渉が滞っていたが、バイデン政権がギアチェンジし、21年の基本合意、そして今回の合意を導いた。ただ、議会で条約を批准するには、上院で3分の2の賛成が必要だ。

   与党の民主党と野党の共和党の勢力が拮抗しているなか、共和党は「米国企業の利益が国内法や二国間条約に反する形式で課税される」などと反発している。

   課税対象の世界100社程度のうち、ほぼ半分は米国企業が占める見通しで、条約発効条件は未定なものの、米国の批准なしに条約発効は望めないのが実態だ。

   デジタル課税については欧州連合(EU)が独自の課税に動き、OECDを中心に多国間の課税実現を条件に、独自課税を凍結している。

   米国批准の見通しが立たない場合、それぞれの国がバラバラに、勝手に課税に動き、企業活動に混乱をきたす懸念もある。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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