生成AI(人工知能)ChatGPTについての書籍や雑誌が相次いで出版されている。当初は原理に関する入門書が多かったが、最近はビジネスでの利用を促す実用書も登場してきた。
本書「ゼロからはじめる なるほど!ChatGPT活用術」(技術評論社)も、その1冊。豊富な実例が参考になりそうだ。
「ゼロからはじめる なるほど!ChatGPT活用術」(マイカ著)技術評論社
「第1章 ChatGPTの基礎知識」、「第2章 ChatGPTでできること」、「第3章 ChatGPTを使ってみよう」で基本を押さえたあと、「第4章 ChatGPTビジネス活用法」では、7つのシーンを想定し、具体的に解説している。
情報収集や戦略立案、アイデア創出の壁打ち相手に
たとえば、販売・営業に携わるビジネスパーソンの場合、商品や市場に関する情報をキャッチし、ベストの戦略をつくることに利用できるという。
市場調査をする場合、これまではWebで情報を集める、アンケートやインタビューによる調査を行い、それらを分析する作業が必要だった。ChatGPTを使えば、それらを効率よくできる。
指示の例を挙げている。
「......(たとえば男性のスキンケア製品)についての市場を知りたいがどうすればいいでしょうか」
多くの市場調査会社が市場動向や成長予測についてのレポートや記事を提供していることを教えてくれる。
また、市場調査のためのアンケートを作成する場合、具体的に質問項目まで回答してくれる。本書には詳しく載っているが、質問の流れもツボを押さえたものになっている。
商品企画・マーケティング部門では、よく使う質問例も紹介している。
「競合他社と比較して、どのような点が不足していると思いますか?」
「......について、どのような価格帯が妥当だと思いますか?」
「......をPRするための記事を作成してください」
イベントのタイムスケジュールをつくってくれることにも驚いた。
「オンラインイベントのタイムスケジュールを考えてください。200人参加、13時開始、16時終了の予定」と指示すると、参加者へのあいさつとイベントの概要説明に始まり、基調講演、ディスカッションセッション、休憩、分科会セッションなど、一連の流れに沿ってタイムスケジュールが示される。
起業家や起業を志す人にとってChatGPTは、情報収集や戦略立案、アイデア創出のための壁打ち相手としてなど広く利用できそうだ。
アイデア出しに始まり、マーケットサイズの調査、顧客のロールモデルの作成、商品のメンタルモデルの理解、専門家のアドバイスによるリスクヘッジまで、指示に従い、回答してくれる。
SE・プログラマーにとって強力なツールに
SE(システムエンジニア)・プログラマーにとっても、ChatGPTは非常に強力なツールであり、脅威であるかもしれないという。システム開発、プログラム設計、コーディングなど、幅広い分野でChatGPTの活用が考えられる。
たとえば、プログラム作成を補助してもらう、関数やエラーの内容を調べる、英語の文章を翻訳してもらうなどの例を挙げている。簡単なプログラムのコードであれば生成したり、他の言語に書き替えてもらったりすることも可能だ。
また要件を定義する場合、これまでは経験やノウハウが必要だった。ChatGPTを活用することでシステムエンジニアとして何をすべきかを学ぶことができ、実際に要件定義を決定していく際の作業負担も軽減されるという。要件定義のステップの確認、要件の定義、画面フローへの落とし込みの例を紹介している。
教育関係者にとってもChatGPTは強力な武器になりそうだ。日常のプリントづくりや小テストの作成から、教育プログラムの企画・運営、授業の実施、学生の指導・評価まで使える。
「鎌倉時代の出来事について穴埋め問題をつくって下さい」と指示すると、典型的な事項についての問題がいくつも出てくることに驚いた。最近、教師は負担が重いと敬遠され気味だが、労務問題の解消に役立つかもしれない。選択問題、クイズ形式の問題と自在に活用できる。
さまざまなコンテンツ制作にChatGPTが役立つことは言うまでもない。下調べからコンテンツの構成、文章の作成、デザインや原稿の方向性についてのアドバイスまで利用できる。
「第5章 ChatGPTの拡張と他のAIツール」では、スマホアプリの紹介をしているiPhone用のChatGPTアプリのインストールから、文字入力・音声入力の操作のほか、LINEで友だち追加をするだけでChatGPTが使えるようになるサービスを紹介している。
この「AIチャットくん」は、1日5回までなら無料で使うことができる。これなら、スマホで気軽にChatGPTにアクセスできそうだ。
ChatGPTは、あらかじめ学んでおいたデータに基づいて回答を生成するため、最新の情報や特定のWebサイトからの情報を取得することはできない。また、回答内容の正否を確認することができない。そうした「弱点」があることも知っておいた方がいいだろう。
マイクロソフトが提供する「新しいBing」のように、出典を表示するサービスを使えば、「詳細情報」を参照することで内容の正確性を確認することができるとアドバイスしている。
ユーザーが拡大し、新たな活用法が日々生まれている。しばらくの間、ChatGPT関連の書籍、雑誌から目が離せないようだ。(渡辺淳悦)
「ゼロからはじめる なるほど!ChatGPT活用術」
マイカ著
技術評論社
1540円(税込)