植田総裁のタイミングのよい英断で、巧妙な措置
今回の「植田サプライズ」、エコノミストはどう見ているのか。
ヤフーニュースコメント欄では、法政大学経済学部の小黒一正教授(金融論)が、
「今回の措置は、YCCの撤廃でなく、微修正に過ぎないという批判もあるが、私は英断で、巧妙な措置だったと思う。なぜなら、実質的な利上げであるためだ。
日銀の説明では、長期金利の上限を0.5%に据え置くものの、状況によっては上限の0.5%を突破することも容認した。その代わり、これまで0.5%の利回りをターゲットとしていた『連続指し値オペ』(10年物国債をターゲットとする利回りで無制限に毎営業日購入する措置)を利回り1%に引き上げることを決めたわけで、これは、実質的に長期金利の上限を1%に変更する措置だ。連続指し値オペにつき、植田総裁は『念のための上限キャップ』と説明したが、とても上手い『言葉遣い』で、巧妙な措置に思う」
と称賛した。
同欄では、第一生命経済研究所主席エコノミストの藤代宏一氏も、
「短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%からプラスマイナス0.5%程度に据え置くというYCCの枠組み自体は残しつつ、連続指値オペの発動水準を1.0%へと変更することで事実上、長期金利の誘導目標上限値を1%に引き上げた形です。したがって、新たな長期金利誘導目標は0.5~1.0%になったと考えられます」
と、実質的な利上げであると指摘。つづけて、
「このような『回廊』を設けることで、市場機能を復活させる狙いがあったとみられます。なお、今回も日銀の政策修正は市場関係者の意表を突くタイミングで発表されました。植田総裁も認めるようにYCCの修正は事前通知が困難であり、ましてや政策修正が広範に意識され、国債売りが膨らんでいる状況で日銀が動くことは不可能に等しいからです。こうしたYCCの特性を踏まえると、今回は好機であったと言えます」
と、タイミングもよかったと評価した。
同欄では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の小林真一郎氏は、
「長期金利が0.5%を上回ることを絶対に認めないとの強い姿勢から、0.5%を上回っても柔軟に対応するとしたのは、事実上の金融政策の引き締め方向への修正です。長期金利の変動幅はプラスマイナス0.5%に据え置かれたものの、指値オペのレートを1%に引き上げるとしており、上限金利は1%となります。いずれYCCを放棄する、もしくはマイナス金利政策を解除することへの伏線であると考えられます」
と説明。そして、
「日本銀行が金融政策の修正に動き始めているのは、国債を大量に買い続けることを前提とした現行の政策を維持していくことが困難であるためであり、金利を引き上げることで物価上昇の抑制や円の下落阻止を狙ったものではありません。
もっとも、物価上昇のペースが政策委員の想定を上回っているなか、次第に賃金の上昇率も高まっており、徐々に金融政策の正常化に向けた条件が整いつつあります。次回以降の会合でも、追加の修正が議論されることになると思われます」
と、将来の正常化への第一歩だとした。