ロシアが黒海を経由する、小麦などのウクライナ産穀物の輸出合意から離脱したことで、中東やアフリカなど途上国の食料危機に発展しかねないという懸念が高まっている。
途上国への打撃だけでなく、幅広い世界の食料価格の高騰につながる可能性も高く、日本への影響もありえる状況だ。
ウクライナ産穀物の積み出しができなくなり、途上国に深刻な影響 「4億人の生命が危機に」?
ロシアは2022年2月にウクライナに侵攻して以降、クリミア半島周辺でウクライナ軍と激しく交戦し、黒海は事実上封鎖された。
しかし、ウクライナは世界有数の穀物輸出国であり、黒海からの積み出しができなくなれば世界、とりわけ途上国に深刻な影響が生じる。
このためトルコと国連が仲介し、同7月に穀物の輸出合意が成立し、ロシアは武器を積んでいない船の安全航行を保証することになった。
合意はこれまで3回延長された。だが、ロシアは今回、「ロシア産穀物などの輸出を正常化するという約束を国連が果たしていない」などと主張、自国の利益を満たしていないとして2023年7月17日に離脱を宣言した。
ウクライナ侵攻以降、ロシアは欧米諸国などから厳しい経済制裁を受けて国内経済が厳しくなっているともいわれており、合意離脱で欧米諸国に揺さぶりをかけ、制裁緩和などにつなげたい狙いとの見方もある。
ロシアの合意離脱により、「最も困るのは中東やアフリカなどの途上国だ」(食料問題の専門家)という。ウクライナ産の穀物は比較的品質が低く、安価なのが特色で、大多数は先進国ではなく、途上国に向けて輸出されているからだ。
ロシアがウクライナへの侵攻を開始した直後は、中東やアフリカで小麦が足りなくなり、パンを買えない人たちで大混乱したが、「同じような食料危機が再燃しかねない」(同)との見方もある。「4億人の生命が危機にさらされる」ともいわれている。