軟着陸は楽観的、米国経済の本当のリスクはこれから高まる
さて、金融市場では9月のFOMCで利上げがあるかどうかに注目が集まっているが、今後のFRBの動きをエコノミストはどう見ているのか。
ヤフーニュースコメント欄では、第一生命経済研究所主席エコノミストの藤代宏一氏が、
「前回6月のFOMCは利上げを休止し、既往の金融引き締め効果を見極める構えを示しました。しかしながら、この1か月に発表された経済指標は堅調なものが目立ちました。インフレ沈静化を最優先課題とするFRBは、インフレ再燃のリスクを回避するために、利上げ再開を決定した形です。
景気の粘り強さを印象付ける指標としては、金利上昇に脆弱であるはずの住宅市場データが反転上昇したことなどが挙げられます」
と説明。今後については、
「もっとも、インフレ関連指標は消費者物価指数(CPI)が前年比プラス3.0%(これは日本よりも低い上昇率)に低下するなど、インフレは着実に沈静化に向かっています。これらを踏まえると、次回の9月FOMCは利上げが見送られる可能性が高いでしょう」
と、予測した。
一方、年内にあと1回利上げがあるのではないかと見るのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「サプライズなしのFRB利上げ再開(7月FOMC):注目は9月FOMCでのFF金利見通しに」(7月27日付)のなかで、こう述べている。
「FF金先市場は次回9月を中心に、年内1回の追加利上げを予想している。さらに、年内の利下げはなく、来年に合計1.5%の利下げを予想している。筆者(=木内氏)は、9月の追加利上げについてはなお不確実ながらも、年内にあと1回の利上げが実施された後、政策金利は据え置かれ、来年には利下げが実施されると予想する」
ただし、金融市場は来年以降の利下げがFF金利が4%台程度に下がる小幅なものと予想するが、木内氏は3%程度に下がる大幅な利下げに発展すると見る。それは、こういう事情からだ。
「金融市場で、FRBの利上げ打ち止めに近いとの期待を高めるとともに、米国経済がソフトランディングに向かう、との楽観論を強めている。
しかし、米国経済については、物価上昇率の落ち着きが見られ始めてから、むしろリスクが高まるという面があるのではないか。物価上昇率が低下してきていること自体が、金融引き締めによる景気減速の表れとも言える。
また、FRBが物価高に対する警戒を容易に解かない中で、景気の減速が明確になれば、金融市場、企業、家計の中長期のインフレ期待はさらに低下していく。その結果、実質金利(名目金利―インフレ期待)は上昇し、それが経済活動を抑制する」
つまり、FRBの利上げが最終局面に近づくなかで、実質金利が上昇して事実上の金融引き締め効果が強化されてしまう。となると、FRBも逆に大幅な金融緩和を行なわなくてはならなくなる?
「少なくとも来年には米国経済が景気後退に陥り、金融市場が現在想定しているよりも本格的な金融緩和が実施されると見ておきたい。それは米国の長期金利を大きく押し下げるとともに、急速な円高ドル安の巻き戻しを生じさせるだろう」
急激な円高に見舞われれば、現在、円安の恩恵もあって株高を謳歌している日本経済はどうなるのか。(福田和郎)