まるでAI営業部長?! 商談を科学するAIソリューション「Front Agent」がすごい! 企業の生産性を高める真の手助けに/Umee Technologies・新納弘崇CEO

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   「生産性を高める」――もはや、耳にタコができるほど喧伝されているこのフレーズ。日本の企業が抱えている弱点、「直せない悪癖」としてあがることも少なくない。いつになっても克服できない課題に対して、解決策はないものだろうか。

   そうしたなか、「商談」のシーンを変えてくれるかもしれないAIサービスが存在するのをご存じだろうか。

   それは、Umee Technologies(ユミー・テクノロジーズ/東京都調布市)が開発したAIサービス「Front Agent(フロントエージェント)」だ。

   Zoomなどを使って商談をする際に、商談の成功パターンを可視化して「勝ち筋」を分析し、営業担当者にアドバイスを送るというソリューションである。さながら、「AI営業部長」ともいうべき存在だ。

   「Front Agent」を手掛けた同社は、国立大学法人 電気通信大学認定のスタートアップという大学発ベンチャーだという。CEOの新納弘崇(にいろ・ひろたか)さんに話を聞いた。

  • Umee Technologies株式会社 CEO 新納弘崇さん
    Umee Technologies株式会社 CEO 新納弘崇さん
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ロボット工学を学ぶもAI開発のベンチャー企業を設立! その道のりとは?

   実は、新納さんの経歴はユニークだ。大学時代の研究テーマは、ロボット工学、医療工学で、神経接続義手の研究でも手腕を発揮。卒業後、ヤマハ(静岡県浜松市)では、新規事業開発などに携わった後、VRのベンチャーを経て、AI技術に強みを持つUmee Techonologiesを起業している。

   J-CAST 会社ウォッチ編集部が最初に注目したのは、この異色ともいえる新納さんの経歴。大学時代はロボット工学を研究しているのに、現在はAIの事業を手掛けるなど違う分野で手腕を発揮しているのだ。そんな新納さんの軌跡を追う――。

――新納さんには、AIサービスの「Front Agent」を開発される以前の話をぜひおうかがいしたいと思います。大学での研究テーマは、ロボット工学や医療工学だったんですね。

新納弘崇さん 父が薬剤師だということもあり、子供の頃は医者になるのが夢でした。ただ、その一方で、もともと子供の頃からロボットが好きで、『鋼の錬金術師』や『ガンダム』のファンだったんです。そのためか徐々に志望が変わり、人と機械が融合していくような世界には興味を持ちました。その関心から、大学ではロボット工学を専攻しました。

――そうだったんですね。医者を目指していたのはいつごろのことですか?

新納さん 小学3、4年生でしたね。病弱だった幼少期は病院のお世話になることがあり、そこで触れ合う医者は、自分にとって身近なヒーローでした。学校の先生とは違う「先生」という立場にどこか惹かれるものがありました。さらには、医者は病気を治し、人を助ける存在ということにも憧れました。そして、「人を助けたい」という思いは、その後の自分の礎ともなっています。

――そこから、なぜロボット工学に関心が移ったんでしょうか?

新納さん 「人を助ける」ことに貢献したいという思いを持ちつつも、ロボットに関心を持ったきっかけは、医療だけではすぐに限界がきてしまうだろうと感じたからです。
たとえば、体を事故で欠損させてしまった場合、治療方法としては再生医療が考えられますが、実現はおそらくまだ先のことだろう、と。しかし、義手などのロボット工学的なアプローチであれば、再生医療よりも早い段階で実現できるかもしれないと考えたからです。
もっと言うと、医療の世界は、たとえば抗がん剤の開発が代表的ですが、その研究は『砂漠の中のダイヤモンドを探す』といった感じで、投じた労力に対してリターンがある確率がそう高くありません。一方、ロボット工学的なアプローチは投じた労力に対して、成果が出やすいと考えたからです。

――そのような理由でお決めになったんですね。

新納さん そうなんですよ。それで、大学に入って研究室に入る際には、教授とお話しをさせていただく機会に恵まれ、自分がやりたい義手の研究の内容をお伝えしたところ、「ぜひ、やろう」と認めていただけたんです。普通、大学生の研究テーマは教授から与えられるものですが、私の場合は自分から提案したんですよ。

――すごい学生ですね!

新納さん 私の提案を汲み取ってくださった教授は、もともと、産業技術総合研究所のセンター長を務めていらっしゃった方です。その縁で、その後、東京大学と共同で研究が始まりました。

――そういうことだったんですね。

「お客様の声が遠い」と感じて...いろんな人の声を取り入れる「モノづくり」の仕方を主導

   新納さんの異色の経歴が明らかになった今回のインタビュー。新納さんの大学卒業後の進路とは?

新納さん 実は大学卒業後にも起業も考えましたが、「キャリアを積みたい」と考えて企業に就職することにしました。入社したのは楽器製作で有名な、ヤマハでした。

――非常に芯がしっかりされていますね!

新納さん そうですか? 自分は「目的なく動く」ということが、あまり得意ではないというのはあると思います。

――入社後はどんな仕事をなさっていたんでしょうか?

新納さん 入社後はエレキギターやエレキベースの開発部門に入りましたが、特に印象に残っているのは、新規事業開発にかかわるプロジェクトです。いま思うと、ここでの人を巻き込んでプロジェクトを進めていく経験が、その後の起業やAIサービス「Front Agent」の開発にも生きているのかなと思います。
このプロジェクトは私が会社に提案して始めたものなのですが、きっかけは開発部門にいたとき、「お客様の声が遠い」と感じることが多かったからです。言ってしまえば、「これだけデジタル化が進んでいる時代なんだから、いろんな人の声を聞いて、もっと最適化された製品開発ができるだろう」という思いがありました。

――どういうことでしょう? 詳しく教えてください!

新納さん このプロジェクトは、「一般のお客様はどういうことを考えているんだろう?」というニーズの部分を、開発者がいかにして持てるようになるかを体系化しようというねらいから始まりました。
広く一般の人の声も聞いていかなければ、どうしても井の中の蛙になってしまいますから。このような方針を立て、上司に提案。承認を得てからは、当初は社員の中で有志を集めました。最初は自分を入れても3人という規模でしたが、最終的には約200人の大所帯になりました。

――何か、もう起業しているみたいですね!

商談を「科学する」ことは可能か? 「Front Agent」開発秘話

   その後、VRのベンチャーを経て、経営の経験も積む。そして、母校の電気通信大学から出資を受け、ついにUmee Techonologiesを設立する。同社設立後はまず特許を押さえ、その後で製品化していくという方法で会社の基礎を作ったという。

新納さん 会社は令和の初日、2019年5月1日に設立しました。大学に話を持ち掛けたところ、快く引き受けてくださいました。最初のうちはこれといった技術はありませんでしたが、AIに関する論文を読み漁って知見を積み重ねました。

――そもそも、商談アシスタントAIを作成しようと考えたきっかけは?

新納さん 自分も経験があるのですが、「商談」の世界って、感覚的なところがありますよね。いろんな人に「商談ってどうやっていますか?」と聞いて回りましたし、「商談って、科学できると思いますか?」と聞いても、「いや、難しいからムリだよ」なんて即答されました。

――そんなご経験があるんですね。そこから、商談アシスタントAIの発想に?

新納さん だからこそ、いけると思ったんです。なぜならば、とくに深く考えずに「できない」と即答したということは、つまり、商談をどう進めればよいか、ロジック分解できていないということだと考えたんです。しかし、自分としては「商談のロジック分解は可能である」と感じていたので、これはビジネスとして穴場ではないかと判断し、ソリューション開発を進めました。
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商談の成功パターンの可視化からAIが商談を同席支援する商談アシストプラットフォーム「Front Agent」

――そういうことだったんですね。その結果、音声を分析して要素を抽出して商談をアシストする「Front Agent」が誕生したということですね。

新納さん 実は、商談アシスタントAIはもう1つの方面からの気づきもまた、開発の原動力になりました。それは、人は、会議の録音があっても全く聞かない、ということです(苦笑)。それは、昔から気になっていました。

――と、いいますと?

新納さん 録音や録画を共有しても全く使われないのです。「ここがポイントだ」と分数を指定してもです(笑)。だからこそ、録音の重要な部分を取り出す、すなわち要素を抽出する作業をAIにさせようと考えました。そして、抽出した要素を分析すれば、商談の分析に使えるな、と。

――何だか、勉強にも応用できそうですね。

新納さん そうですね。商談と勉強に共通する「何かを感覚的にやろう」というスタンスの部分を言語化していくという点は同じですから、勉強にも使えると思います。
そして、それ以外のジャンルにも応用していけるでしょう。さらに言うなら、私はこのような「感覚的にやってきたことを言語化する」という分析作業が、次のデジタル化だと思っています。
今までのデジタル化は「定量的」に測りやすいものを扱ってきましたが、これからのデジタル化は「定性的」なものを、いかに定量化できるかという点が重要になっていくと考えています。

――思えば、「記事を書く」という作業もまた、定量化しづらい、つまりはマニュアル化しづらい作業ですね。今後は記事作成も定量化され、AIがやっていくことになるんでしょうね。ChatGPTは一部、もうそのようなことをやっていますから。

新納さん ただ、ChatGPTは統計的な処理で文章を作成しているので、「自社の特色をアピールする文章」といった一般的ではない文章を書かせようとしても、あまりうまくいかなかったりします。ようは、記者が「感性」で書いているところを、いかに言語化していくかというところがポイントになるわけです。
これに対して、そういった「感性」をすくい上げられる機能が「Front Agent」には搭載されています。「会話ヒートマップ」という機能です。これは、各発言の文字起こしはもちろん、「共感度が上がっている」「早口になっている」といった要素まで分析し、それをPCの画面に表示します。これがあると、会話を定量的に分析することができるので、「どの発言が商談成立に有効だったか」といった点が分かるのです。

――そうすることで、会話を「可視化」できるというわけですね。

新納さん さしずめ、「話術を視覚的にインストールする」とでも言えばいいでしょうか(笑)。

――たとえとしていいかわかりませんが、まるで映画『マトリックス』とか『攻殻機動隊』の世界観ですね! ところで、6月末には「Zoom Phone」とのコラボが始まりましたが、今後の改良点は何でしょうか?

新納さん たくさんありますね。たとえば、会話の解析の切り口を増やしていくのはもちろん、「次に何を言うか」を指示してくれるレコメンド機能も、より向上させていきたいと考えています。あたかも隣に助言者がいるような感覚で使えるようになるレベルにしたいと思っており、その道筋は立っています。

日本社会は「先行投資」が下手!?

   インタビュー終盤、新納さんは日本社会への「提言」を口にし始めた。

――話が変わって、ソリューション開発でつらいことってありませんか?

新納さん そうですね...開発ではあまりありませんが、会社経営の面では苦労はあります。やはり、事業計画を出す際に数字が積めていないものしか出せないときですかね。ちなみに日本と海外(とくに、起業やベンチャーに好意的なアメリカ)を比べると、「数字が積めていないこと」に関して言えば、日本の方がつらいかもしれません。

――それはなぜでしょう?

新納さん 日本ではやはり、資金集めの際に「数字ありき」なところがあって、スタートアップ企業が苦労する傾向はアメリカよりも強いと思います。
特に、弊社のような「ディープテック」のベンチャーは資金集めに苦労します。この傾向は...やはり、日本は先行投資への動きが鈍い国だと言えるでしょうか。
個人的には、日本の「失われた30年」は先行投資が苦手な日本の風土が影響しているのかもしれない...と思ったりもします。

――最後の質問になりますが、新納さんはAIを活用してどんな社会にしていきたいとお考えでしょうか?

新納さん 「Front Agent」を通じて、理想的な姿として、あらゆる状況下でのコミュケーションの助けになることを目指したいですね。Z世代、もしくは、これから生まれてくる方々は、今よりもはるかに高いレベルのコミュニケーションが求められるような気がします。
背景として、今後の人口が減っていくトレンドの中で、GDP(国内総生産)を維持するには、コミュニケーションを向上させることで生産性を上げていくことが、どうしても必要になると考えられるからです。

――なるほど。

新納さん もう少し語らせていただくと、現状、少子化が加速的に進んでいる日本では、下の世代であればあるほど1人でたくさんの高齢者を支えることになるので、社会保障費をはじめとする負担が大きくなっていくわけです。それはすなわち、1人1人が生産性を上げてGDPを増やし、この国の財政を支えていかなければならないことを意味します。
そう考えると、働く人は合理的な行動が求められますし、あるいはマルチタスクで仕事をこなしていくことがより求められるかもしれません。その解決策として、AIを活用することで、人間の能力を拡張していくこともまた、必要な世の中になっていくのかもしれませんね。

――新納さんの異色の経歴に始まり、そして「Front Agent」の開発秘話ばかりか、最後は「未来予測」まで多岐にわたるお話をありがとうございました。

(構成/J-CAST 会社ウォッチ編集部 坂下朋永)

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