「黒海封鎖」プーチンに経済制裁効かない? エコノミストが指摘「ロシアにはまだカネがある」「優秀でしたたかな、テクノクラートが救いだ」

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撤退するには8年も、欧米企業を逃がさないしたたかさ

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ウクライナの首都キーウの街並み

   ロシアのウクライナ侵攻直後、欧米企業のロシアからの相次ぐ撤退がニュースになった。しかし実は、こうしたロシア・テクノクラートのしたたかさによって、撤退はなかなか進んでいないようだ。

   ジェトロ(日本貿易振興機構)調査部欧州課のリポート「外国企業撤退にさまざまな思惑が交錯(ロシア)現状と背景を探る」(7月6日付)によると、全体像は定かではないが、2022年2月から2023年5月までの間に、外国企業が200社以上ロシアから撤退した一方で、2022年11月下旬時点で、ロシアに進出済みのEU・G7企業の9割がロシアに残留しているとの調査結果もあるという。

   なぜ、残っているのか。企業自身が、将来を見据えて足場を残す例も少なくない。また、自動車など戦略的に重要な産業では、ロシア政府が直接関与して事業の継続を図る例が目立つ。

   たとえば、フランスのルノーは保有していたロシア最大の自動車メーカー、アフトワズの株式をロシア政府の自動車・エンジン中央科学研究所(NAMI)に売却した。トヨタと日産も同様に工場をNAMIに売却している。

   モスクワ市政府に売却したルノーの旧モスクワ工場では、すでに中国車のノックダウン生産が始まっており、産業商務省が主導し、中国メーカーとの協業が進められているという。つまり、撤退した欧州や日本の自動車メーカーの代わりをロシアや中国メーカーが担っているわけだ。

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黒海のダーダネルス海峡を航行するフェリー

   もう1つ、ロシアから撤退を表明した企業は、撤退までに長い時間を要する羽目になっている。

   事業譲渡にあたっての株式売却など、撤退に関連する実務を進めるためはロシア政府の小委員会の承認が必要だが、2023年3月時点で約2000の企業が小委員会の承認待ちだ。

   しかし、小委員会の開催は月3回にとどまり、1回あたり最大7社の案件だけしか審査できないとする報道がある。つまり、毎月審議されるのは21社だけで、2000社全部が済むのは約8年先ということになる。

   リポートは、こう結んでいる。

「どの順序で審査されるかは、ロシア政府にとっての案件の重要度によって『小委員会』が決定するという話も耳にする。売却価格が適正かどうかも懸念材料だ。
平均の売却価格は算定市場価格から70%を割り引いた額だったという。カナダのキンロス・ゴールド(金採掘)、米国のアーコニック(アルミ生産)、フィンランドのノキアンタイヤ、米国のブンゲ(食用油製造)など、いずれも売却価格は算定市場価格を大幅に下回ったとされる。事業価値に対しての大幅な割引をよしとせず、事業売却ができなかった例もある。
撤退しにくくなるよう外資に働きかけるロシア政府の政策誘導も垣間見える。それらが複雑に交錯しているというのが実情だろう」

(福田和郎)

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