優秀なテクノクラートが、ロシア経済の唯一の救い?
ロシア中央銀行が戦争中にもかかわらず、景気下振れリスクが恐れずに大幅な利上げに踏み切った背景に何があるのだろうか。
ロシアの優秀なテクノクラート(経済・技術系官僚群)の存在がある、と指摘するのは、第一生命経済研究所の主席エコノミストの西濱徹氏だ。
西濱氏はリポート「ロシア中銀、戦争中にも拘らずインフレを警戒して大幅利上げを決断~機能するテクノクラートが唯一の救いか、一方でウクライナ情勢は一段の長期化も念頭に置く必要~」(7月24日付)のなかで、実質GDP(国内総生産)と成長率のグラフ【図表1】を示した。
そして、ウクライナ侵攻直後は欧米の経済制裁を受け、深刻な景気悪化に見舞われたが、現在は回復途中にあり、1年後には進行前の水準に戻る見通しだとして、こう説明する。
「軍事費増大や、さまざまなバラ撒き政策の動きが景気を下支えするとともに、欧米などの経済制裁強化にもかかわらず、世界的なエネルギー需要の堅調さを追い風に輸出は底堅く推移する一方、輸入の減少が景気下振れを喰い止めることに繋がった。
また、中国やインドをはじめとする新興国がロシア産原油の輸入を拡大させたことで輸出が下支えされる一方、中国やトルコ、中央アジア、モルディブなどからの迂回輸入や並行輸入を拡大させるなど、経済制裁の『抜け穴』となる動きも顕在化している。
大きく下振れした景気は一転底入れしており、こうした状況を勘案すれば、景気を巡る最悪期は過ぎつつあるととらえることが出来る」
経済制裁の「抜け穴」を大いに活用したのだった。一方、インフレはどうか。西濱氏はインフレ率の推移グラフ【図表2】を示しながら、こう説明する。
「欧米などからの輸入減少に伴う物資不足なども重なり、インフレ率は一時20%近くまで加速したものの、その後は一転して頭打ちの動きを強めている。足下のインフレ率は中銀の定めるインフレ目標(4%)を下回る推移が続いており、この動きだけをみればインフレは鎮静化しているととらえられる」
それなのに、なぜ市場予想(0.5%)を上回る1.5%もの大幅な利上げに踏み切ったのか。
それは、中国との経済関係が深まるなか、ルーブル相場が人民元との連動性を高めたため、ルーブル安の傾向にあり、物価上昇の動きが見られるからだった。西濱氏はこう結んでいる。
「(ロシア中央銀行が)タカ派姿勢を強めている様子がうかがえる。同国の財政運営を巡っては、軍事費増大が圧迫要因となるなかで、国民福祉基金を取り崩して対応するなどの対応みられるが、金融政策についても慎重な対応が続いている。その意味では、テクノクラートがきちんと機能していることが、同国経済にとっての唯一の救いととらえることができる」