「プリゴジンの反乱」が終わりの始まり、と見るのは早計
「ロシアにはまだ豊富な資金力がある、過小評価は禁物だ」と警鐘を鳴らすのは丸紅経済研究所所長代理の榎本裕洋氏だ。
榎本氏は、経済評論サイト「世界経済評論IMPACT」に掲載したリポート「ロシアにはまだカネがある。侮るべからず」(7月17日付)の冒頭で、こう述べている。
「いわゆる『プリゴジンの反乱』を受けて『プーチン政権の終わりの始まり』といった論調が目立つ。これが西側にとって吉報なのか悲報なのか定かではないが、十分な情報が得られない環境下では保守的な分析、つまり分析対象を過小評価しないことが肝要であると考える。要するに『侮るべからず』ということだ」
そのうえで、「最近気になっているのは、ロシア政府の財政赤字をもって『ロシア経済は苦境に陥った』とする論調だが、それは本当だろうか」として、こう指摘する。
「ロシア財務省が普通に機能しているという前提に立てば、財政赤字が確定したということは、その赤字分が借入などで無事埋め合わされたということでもある。もし、財政赤字分を埋め合わせることが出来なければ、その分の財政支出ができないので、そもそも財政赤字にすらならないはずである。
つまり、ロシアの経済的継戦能力をみるには、政府の借入や増税の原資となる企業・家計も含めたロシア全体の資金余剰・不足を観察する必要がある。太平洋戦争下で日本でも企業や家計の資源が総動員されたことを思い出してほしい。戦時は特別なのだ」
その際に注目するのが「経常収支」だとして、ロシア中央銀行の統計を引き合いに榎本氏はこう続ける。
「ロシアの経常収支は、四半期ベースでは2022年4~6月期(プラス767億ドル)を直近ピークに、2023年1~3月期(プラス148億ドル)まで減少傾向が続いているがそれでも黒字だ。
注意したいのは、財政収支(赤字)を埋め合わせてなお経常黒字、つまり企業・家計に資金余剰(貯蓄余剰)があるということだ。フローで見る限りロシアにはまだカネがある」
そして、こう結んでいる。
「経常黒字が減少傾向にあるとしたが、これを経済制裁、特に(欧米諸国が課した)原油価格の上限設定の効果とする見方にも疑問が残る。世界経済減速による油価下落がロシアの経常黒字を減らしている可能性もあるからだ。
実は、ロシアの月次ベースの経常収支を見ると、4月(プラス23億ドル)を底に、直近5月はプラス52億ドルと増加に転じている。単月の動きだが侮れない」