トラックドライバーが足りなくなる恐れがある「物流の2024年問題」を前に、警察庁は2023年7月末から、高速道路でのトラックの速度規制を緩和する検討を本格的に開始する。
現行の時速80キロから、普通車と同じレベルの100キロ程度に引き上げる方向と見られている。しかし、安全面などへの懸念は強く、賛否両論が巻き起こる可能性が高い。
規制緩和で荷物を運ぶ時間を短縮...ドライバー不足の対応策として有効?
トラック運送業は2024年4月から、残業規制が強化されることになっており、ドライバーが不足する事態が予想されている。野村総合研究所が行った推計によれば、24年問題の影響で、30年には全国の約35%の荷物が運べなくなるという。
こうした事態を憂慮する政府は23年6月、危機に対応するための「政策パッケージ」を発表した。
速度規制の緩和はこの中で対策の一環として盛り込まれ、警察庁は有識者会議を7月末に設置。交通の専門家や運送業界団体の代表らから意見を聞き、年内に提言をまとめる予定だ。
現在、車両総重量8トン以上の中・大型トラックは、高速道路では時速80キロに規制されている。ブレーキをかけてから停止するまでの制動距離が長く、トラブルが生じた際は大事故につながりかねないからだ。
しかし、大型トラックが絡む人身事故は近年減少傾向にあるとされている。さらに、「時速120キロ規制の道路では、大型トラックだけが80キロで走っているとかえって危険な場合がある」との声もあり、規制の緩和案が浮上していた。
速度規制が緩和されれば、ドライバーが荷物を運ぶ時間を短縮することができ、働き方の効率は上がる理屈だ。このためドライバー不足の対応策としては有効だという見方も少なくない。
運送業界からは反発も 運送時間短縮の効果は、ドライバーの賃上げなどに活かされるか?
ただ、運送業界の中には反発も根強い。
ある業界関係者は「規制が緩和されれば、荷主から、より早く配送するよう求められ、ドライバーのストレスは増すだろう。働き方改革の本筋から言ったら、本末転倒ではないか」と話す。
もともと、トラック運送業の7割超は中小零細企業で、荷主に対して力関係が弱いという構造的な問題があり、慎重な対応を求める声は少なくない。
速度規制の緩和など小手先の対応ではなく、「賃金を上げるなどドライバーの待遇自体を改善して、なり手を増やす対策こそ進めてほしい」という要望も強い。
一方、人身事故が減少傾向にあるとはいえ、一度事故が起これば普通車以上の被害が生じるのは目に見えており、「安全性を確保する面から見過ごせない」という一般市民の声も出ている。
7月末から始まる有識者会議では賛否両論が出るのは必至とみられ、意見集約が可能なのか、今から懸念されている。(ジャーナリスト 済田経夫)