各地で支援が加速している「ベンチャー型事業承継」って何? 「アトツギ支援コンソーシアム」で語られた支援の実態とは

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   団塊の世代が75歳を迎え、中小企業の多くが後継者不足になっていることを「2025年問題」と呼ぶ。このままでは中小企業の大量廃業につながるため、喫緊の課題だ。

   そんななか、事態を懸念している中小企業庁では、家業を継ぐことを選んだ後継ぎが新規事業で企業を盛り返すことを応援するイベント「アトツギ支援コンソーシアム」を2023年7月20日に渋谷スクランブルスクエアで開催した。

   イベントのなかでは、新規事業や業態変更を伴った事業継承を支援する地方金融機関や自治体の好事例を紹介し、地域にとっての事業継承の効果を交流するトークセッション、後継ぎたちのホンネが聞こえてくる交流会など、参加した50人以上の関係者は熱心に聞き入った。

  • 活発なセッションで好事例やアトツギの課題を共有
    活発なセッションで好事例やアトツギの課題を共有
  • 活発なセッションで好事例やアトツギの課題を共有

地方の銀行や自治体などがホンキで取り組む後継者支援...成果と課題とは?

   「アトツギ支援コンソーシアム」は、「2025年問題」を懸念する中小企業庁が、より一層事業承継を進めるため、新規事業や業務改善を目指す後継者(アトツギ)に対して、十分な後押しを行うために実施するもの。後継者支援に賛同する支援機関などの共同体をつくることで機運を高め、好事例や課題などを共有する賛同者を広げることを目的とする。

   この日、はじめに経済産業大臣政務官の長峯誠氏がビデオを通じてあいさつがあり、

「日本経済の屋台骨である中小企業の持続的な成長には次世代の経営者である後継者の育成が大切。この取り組みから日本や世界に羽ばたいていくような後継者が育っていくことを期待する」

   と述べた。

行政からの支援策や補助金の説明が行われた
行政からの支援策や補助金の説明が行われた

   続いて、中小企業庁担当職員から中小企業に向けた事業承継や事業引継ぎ、M&Aに関する支援策を説明した。

   アフターコロナにおける経済社会の変化に対応するために、中小企業の事業再構築を支援する「事業再構築補助金」や、これまで小売りなどの業態だった中小企業が「ものづくり」への業態転換を図る設備投資を支援する「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」など、後継者が家業を生かしながら新規事業を行える支援制度があることを説明した。

事例を紹介する村井氏
事例を紹介する村井氏

   つぎに、大分県庁商工観光労働部の別所宏朗氏、京都信用保証協会の村井章大氏、みなと銀行(兵庫県神戸市)の河田健人氏がそれぞれの地域で行った事業承継支援の事例を紹介した。

   このうち、京都信用保証協会の村井氏は中小企業への金融支援と経営支援の業務が柱であることを説明。

   後継者支援の事例として、京都府宇治市で行う「産業交流拠点うじらぼ」の取り組みを示し、事業の一つである「アトツギらぼ」では中小企業診断士や起業家を招いた勉強会を実施し、地銀や後継者、先輩経営者が交流しあうコミュニティをつくっていることを紹介した。

   さらに、村井氏は後継者育成の重要性について

「家業と新規事業について真剣に考える後継者は、いずれ地域をけん引するリーダーシップのある経営者に成長する。そして、地域活性化のキーマンとなっていくため、一過性の支援ではない継続的な支援が重要」

   と強調した。

50人以上の関係者とオンライン参加者が熱心に説明を聞いた
50人以上の関係者とオンライン参加者が熱心に説明を聞いた

アトツギはツラいよ... 新しい取り組みで経営者と対立することも 「新規事業は過酷。もっと支援団体や地域の人を頼って!」と支援者

右から須藤氏、松田氏、宮治氏
右から須藤氏、松田氏、宮治氏

   このあと、トークセッション(1)と(2)に移った。後継者の本音を聞くトークセッションでは、アトツギ甲子園のファイナリストである千葉県館山市の須藤牧場の須藤健太氏と宮崎県延岡市の城山ふとん店の松田陽子氏、モデレーターとして家業イノベーションラボの宮治勇輔氏が務めた。

   セッションでは、後継者が新規事業を行うための最大の障壁は、従業員や行政、金融機関でなく親である「先代」だという意見が上がった。

   ふとんの販売や打ち直しというもともとの家業から、補助金を得てクリーニングの新規事業を立ち上げた経験のある松田氏は、こう話した。

「私が新しいことを始めようとすると真っ先に止めるのが経営者(母親)。正しい部分もあり、難しい部分もあり、落としどころが決まっている場合もあるが、さながら女子プロレスのような壮絶な話し合いになる」(松田氏)

   一方で、家業であった生乳の販売から品質の高いプレミアムシェイクの販売を行うようになった須藤氏は、次のように話した。

「私の父(経営者)は職人気質な人でめったに酪農の仕事を教えてくれなかった。見て覚えろというタイプでした。 そんななか、ぽつぽつと話すきっかけになったのが牧場の衛生管理についてHACCP(ハサップ)認証を取得しようという話になってから。やはり経営者と同じ方向を向くきっかけが重要」(須藤氏)

   モデレーターであり、自身も養豚業の後継者である宮治氏は「出る後継者を打つのは経営者のあるある」と表現しながら、「ダメになる事業承継であるのが、親と子どもでコミュニケーションが断絶しているところ」と問題点を指摘した。

   このほか、身近な支援者との関わりの大切さや、後継者が助かる支援内容、金融機関や補助金などで助けられた経験についてクロストークした。

左から山野氏、河田氏、村井氏、別所氏が事業承継の支援についてセッション
左から山野氏、河田氏、村井氏、別所氏が事業承継の支援についてセッション

   続いてのトークセッションでは、事業承継を支援する立場の大分県庁の別所氏、京都信用保証協会の村井氏、みなと銀行の河田氏に加えて、モデレーターにベンチャー型事業承継の山野千枝氏が登壇した。

   ここでは、支援対象者を探すために行う、後継者と接点を持つことの難しさが話題に上がった。

   大分県が始めたアトツギ向け伴走支援プログラム「GUSH!」の立ち上げにかかわった別所氏は、次のように回想した。

「県内の地方部をくまなく回り、後継者を探し回わりました。実際に地方の会社まで行って後継者に『いまどんな状況か』を尋ねるという、足を使って情報を集めたことが大分県の後継者支援事業立ち上げに大いに役立った」(別所氏)

   また、モデレーターで新規事業開発や新しい業態を取り入れた「ベンチャー型事業承継」の提案を行う山野氏の指摘はこうだ。

「会社の看板をあくまで背負っているのは経営者であるため、後継者が前に出て話しづらい問題もある。血縁の後継者であっても、第三者の後継者であっても経営者に新規事業をやりたいというのがデリケートで難しい実情もある。
ひとつのテクニックとして、会社内に新規事業立ち上げのグループをつくったり、仲間をつくって取り組みを回していくという社内政治をやることも必要」(山野氏)

   また、山野氏は最後に、後継者と地域の経済について

「スタートアップの創業者は東京に集まりがちだが、アトツギたちは地元に残って仕事を続けるので、支援を続け、よい経営者に育成していくことが地域にとって大切。
また、いい新規事業に育てられれば、地域の産業の柱になる可能性もある。アトツギたちの夢見る未来は、やはり地域の未来と重なってくる部分がある」

   と期待を寄せた。

   なお、中小企業庁の主催するピッチイベント「アトツギ甲子園」のエントリー受付は2023年7月20日~12月15日。エントリー対象者は39歳以下の中小企業後継者。各地方大会を経て決勝戦は2024年3月8日開催の予定。

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