各地で支援が加速している「ベンチャー型事業承継」って何? 「アトツギ支援コンソーシアム」で語られた支援の実態とは

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アトツギはツラいよ... 新しい取り組みで経営者と対立することも 「新規事業は過酷。もっと支援団体や地域の人を頼って!」と支援者

右から須藤氏、松田氏、宮治氏
右から須藤氏、松田氏、宮治氏

   このあと、トークセッション(1)と(2)に移った。後継者の本音を聞くトークセッションでは、アトツギ甲子園のファイナリストである千葉県館山市の須藤牧場の須藤健太氏と宮崎県延岡市の城山ふとん店の松田陽子氏、モデレーターとして家業イノベーションラボの宮治勇輔氏が務めた。

   セッションでは、後継者が新規事業を行うための最大の障壁は、従業員や行政、金融機関でなく親である「先代」だという意見が上がった。

   ふとんの販売や打ち直しというもともとの家業から、補助金を得てクリーニングの新規事業を立ち上げた経験のある松田氏は、こう話した。

「私が新しいことを始めようとすると真っ先に止めるのが経営者(母親)。正しい部分もあり、難しい部分もあり、落としどころが決まっている場合もあるが、さながら女子プロレスのような壮絶な話し合いになる」(松田氏)

   一方で、家業であった生乳の販売から品質の高いプレミアムシェイクの販売を行うようになった須藤氏は、次のように話した。

「私の父(経営者)は職人気質な人でめったに酪農の仕事を教えてくれなかった。見て覚えろというタイプでした。 そんななか、ぽつぽつと話すきっかけになったのが牧場の衛生管理についてHACCP(ハサップ)認証を取得しようという話になってから。やはり経営者と同じ方向を向くきっかけが重要」(須藤氏)

   モデレーターであり、自身も養豚業の後継者である宮治氏は「出る後継者を打つのは経営者のあるある」と表現しながら、「ダメになる事業承継であるのが、親と子どもでコミュニケーションが断絶しているところ」と問題点を指摘した。

   このほか、身近な支援者との関わりの大切さや、後継者が助かる支援内容、金融機関や補助金などで助けられた経験についてクロストークした。

左から山野氏、河田氏、村井氏、別所氏が事業承継の支援についてセッション
左から山野氏、河田氏、村井氏、別所氏が事業承継の支援についてセッション

   続いてのトークセッションでは、事業承継を支援する立場の大分県庁の別所氏、京都信用保証協会の村井氏、みなと銀行の河田氏に加えて、モデレーターにベンチャー型事業承継の山野千枝氏が登壇した。

   ここでは、支援対象者を探すために行う、後継者と接点を持つことの難しさが話題に上がった。

   大分県が始めたアトツギ向け伴走支援プログラム「GUSH!」の立ち上げにかかわった別所氏は、次のように回想した。

「県内の地方部をくまなく回り、後継者を探し回わりました。実際に地方の会社まで行って後継者に『いまどんな状況か』を尋ねるという、足を使って情報を集めたことが大分県の後継者支援事業立ち上げに大いに役立った」(別所氏)

   また、モデレーターで新規事業開発や新しい業態を取り入れた「ベンチャー型事業承継」の提案を行う山野氏の指摘はこうだ。

「会社の看板をあくまで背負っているのは経営者であるため、後継者が前に出て話しづらい問題もある。血縁の後継者であっても、第三者の後継者であっても経営者に新規事業をやりたいというのがデリケートで難しい実情もある。
ひとつのテクニックとして、会社内に新規事業立ち上げのグループをつくったり、仲間をつくって取り組みを回していくという社内政治をやることも必要」(山野氏)

   また、山野氏は最後に、後継者と地域の経済について

「スタートアップの創業者は東京に集まりがちだが、アトツギたちは地元に残って仕事を続けるので、支援を続け、よい経営者に育成していくことが地域にとって大切。
また、いい新規事業に育てられれば、地域の産業の柱になる可能性もある。アトツギたちの夢見る未来は、やはり地域の未来と重なってくる部分がある」

   と期待を寄せた。

   なお、中小企業庁の主催するピッチイベント「アトツギ甲子園」のエントリー受付は2023年7月20日~12月15日。エントリー対象者は39歳以下の中小企業後継者。各地方大会を経て決勝戦は2024年3月8日開催の予定。

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