「子ども業」をしながら就活 海外メディアが指摘する「世の中そんなに甘くない」?
英BBCによると、現在「専業子ども」を選択している若者の多くは、「stay at home only temporarily」(一時的に実家にいるだけ)と捉えているようです。
就活中の新卒者や、職を辞めた人がより良い職を見つけるまでの「リラックス期間」であって、天職として「子ども業」を選んでいる人は少ないと伝える一方で、「世の中そんなに甘くない」と厳しい現実を指摘しています。
背景にあるのは、急激に悪化している雇用状況です。高学歴の若者の就活が厳しくなっているのは、景気後退による一時的な現象というよりも、中国政府の政策が産んだ構造的な問題だと多くのメディアが指摘しています。
1つ目の要因は、政府が推進した高学歴化で大学卒業生らが増えていることです。大学などの高等教育機関の卒業者は、2022年に初めて1000万人を超えて1076万人となりましたが、2023年はさらに増えて史上最多となる1158万人になる見込みだと報じられています。
コロナ前の19年は820万人程度でしたから、わずか4年で約4割も増えることになります。高学歴者が増えることでエリートの価値が下がってしまったのでしょう。
2つ目の要因は、IT業界、教育、不動産といった、大卒エリートの受け皿になっていた業種が政府の規制強化で業績が悪化。採用拡大どころか採用人数を減らす動きにつながり、需要と供給のバランスが崩れて完全な「買い手市場」になっています。
中国といえば、過酷な受験競争を勝ち抜いた「エリート集団」が国家や経済を支えているイメージが強烈です。とりわけ「一人っ子政策」を推進するなかで、学歴を身につけて官庁や有名企業に就職することが、チャイナドリームの根底だったはずです。
メディアでは、幼少期から常にトップの成績で、超難関の一流大学を卒業したエリートでさえ、「採用面接に落ちまくっている」という現実を伝えています。
「学歴社会」の批判を浴びながらも、徹底した「実力主義」で急速な発展を遂げてきた中国。「学歴社会」を勝ち抜いてきたはずの「勝者」が「専業子ども」にならざるを得ないという新しい社会現象が、どういった未来をもたらすのでしょうか。
14億人を超える世界最大国で生まれた現象は、前例のない新しい世界の幕開けになるのかもしれません。
それでは、「今週のニュースな英語」は「full time」(フルタイム)を使ったワードをご紹介します。逆の意味を表す「part time」(パートタイム:非常勤)とセットで覚えておくと便利です。
I have a full-time job
(私は正社員として働いている)
She has a part-time job
(彼女は、パートで働いている)
I am a full-time professor
(私は常勤の教員です)
I am a part-time professor
(私は非常勤の教員です)
米国や英国でも、景気悪化に伴い若手エリートの就職活動が厳しくなっていると報じられていますが(ぜひ前回記事もご覧ください)、中国の場合は「構造的」な現象であることが事態をより深刻にしています。
今後は、高学歴ブルーワーカーが増えるのか、それとも「フルタイム子ども」が新たなポジションを確立するのでしょうか。「買い手市場」の波が広がるなか、新しい価値観とのせめぎあいはしばらく続きそうです。(井津川倫子)