就職先や転職先、投資先を選ぶとき、会社の業績だけでなく従業員数や給与の増減も気になりませんか?
上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、AI開発事業を手がけ、2023年7月7日に東証グロース市場に上場したばかりのグリッドです。
グリッドは2009年に設立。当初は再生エネルギー事業として太陽光発電システムの販売等を行っていましたが、2015年のAI開発事業開始後は徐々に比重を変更。2020年に電力事業者向け需給計画最適化サービスの提供を開始し、事業転換を完了しています。
事業転換で2期連続赤字も黒字転換へ
それではまず、グリッドの近年の業績の推移を見てみましょう。
グリッドの売上高は、2018年6月期には17億円を超えていましたが、その後はこの水準を上回ることなく右肩下がりを続けていました。2022年6月期になって、ようやく9億円強まで回復しています。
当期純損益は、2019年6月期から3期連続で赤字に。特に2020年6月期には、売上高とほぼ同水準となる6.8億円の赤字を計上しています。
この理由について、有価証券報告書には「エネルギーソリューション事業からAI開発事業へ事業転換するために収益を上回る規模で人件費等に対する先行投資を行ったため」と記載されています。
事業セグメント別に見ると、2018年6月期の売上高の85%超は「旧エネルギーソリューション事業」が占めており、そこから2年間でAI事業に人的資源を拡大集中し、一気に事業の転換を果たしたことになります。
前述の通り、グリッドは創業時の再生エネルギー事業から2020年に撤退しており、事業シフトのためのコスト増で赤字が続いていました。黒字回復した2022年6月期も、営業利益率は7.8%と高くない状況でした。
なお、2023年6月期の業績予測は、売上高が13.5億円、営業利益が1.88億円、当期純利益が1.90億円の増収減益となる見通し。減益の理由は、翌期の成長に向けてエンジニアの採用を加速しているためとのことです。
デジタルツインで社会インフラの「計画最適化」を支援
グリッドは、パーパスに「社会インフラにイノベーションを起こし、暮らしを豊かに」、ミッションに「インフラと社会を、その先へ」を掲げています。
事業セグメントは「AI開発事業」の単一セグメントですが、「AI開発」「プラットフォーム開発」「運用・サポート」の3つのサービスを顧客に提供しています。
グリッドは事業領域を「社会インフラのオペレーションを最適化するAI」の開発に特化しており、人による計画業務をサポートする「AIエンジンによる最適化技術」を提供しています。
たとえば、人による計画業務では、熟練人材が1シナリオ×1計画を数時間から数日かけて作成するのに対し、AIは、複数シナリオ×複数計画を数分で作成できます。またAIによって、計画結果をシミュレーターで事前に確認できるメリットもあります。
グリッドのAI開発の特徴は「デジタルツイン」という技術を使っていることです。ビッグデータを用いてモデルを作るのではなく、ビジネスルールと物理方程式を使ってインフラのオペレーションをデジタル空間に再現し、AIアルゴリズムで計画を最適化する手法を採っています。
事業分野は「電力・エネルギー:電力需給計画/プラント制御/分散電源制御」「物流・サプライチェーン:配船計画/生産計画/輸送計画」「都市交通・スマートシティ:都市計画/渋滞予測/空調熱源制御)」の3つです。
2023年6月期3Qの売上構成は、物流・サプライチェーンが50.3%、電力・エネルギーが27.8%、都市交通・スマートシティが18.0%、その他が3.9%です。
プラットフォーム開発は、開発したAIエンジンを業務アプリケーションとして使えるように、業務システムに組み込んで開発・導入するサービスです。AI開発とともに「フロー型売上」と位置づけ、これまでの売上のほぼすべてをあげています。
運用・サポートは、AIエンジンの性能維持およびシステムの障害監視・対応などの「ストック型売上」で、2023年6月期からは売上利益に貢献できる見込みとのことです。
平均年齢38.2歳、平均年間給与767.4万円
グリッドの売上高は2018年6月期から減少していますが、AI開発事業へのシフト、転換にあわせて2018年6月期の33人から、56人、73人と増加しています。
3期連続赤字となった2021年6月期は、69人に微減。2022年6月期は70人、2023年4月末現在で82人へと再び増加傾向を取り戻しています。
2023年4月末現在の従業員の平均年齢は38.2歳。平均勤続年数は2.9年で、平均年間給与は767.4万円と比較的高水準といってよいでしょう。
グリッドの採用サイトを見ると、「DS Project Manager」「Data Scientist」「PM・PL」「Sales」「Front-End」「Back-End」「Optimization」「社内SE」といった職種での募集が行われています。
例えば「PM・PL」の募集要項を見ると、入社後は「大型貨物船舶の運行計画最適化/管理システム開発」や「発電計画最適化/管理システム開発」「高速道路渋滞予測」「SCM需要予測/生産計画最適化」といったプロジェクトに関わることができるようです。
想定年収は700~900万円(月額固定残業代42時間分を含む)。賞与は年2回支給。オフィスは東京メトロ表参道駅から徒歩3分ですが、リモートワーク可、フルフレックス可とのことです。
主な顧客は三井物産と四国電力
2023年7月7日に上場したグリッドの株価は、上場2日目に公開価格2140円の約3倍となる6400円の初値を付けました。その後は緩やかな右肩下がりのカーブを描き、7月11日以降は5000円前後で推移しています。
最近さまざまなAI企業が登場するなかで、グリッドはAI技術を用いた「計画最適化」の領域で事業を行っている異色の企業です。2017年に三井物産、伊藤忠商事、丸紅と資本業務提携を行い、2021年6月期の主な顧客は三井物産が1.22億円、四国電力が1.07億円となっています。
なお、事業等のリスクのひとつに「競合について」があげられており(発生可能性:中、影響度:中)、参入障壁が高いと認識している一方で、将来の成長が期待される市場であるため、国内外の事業者が「社会インフラ分野に特化した計画最適化システムの開発」に参入してくる可能性があるとしています。(こたつ経営研究所)