世界各国が高インフレと戦うなか、中国だけが物価上昇率「ゼロ」
一方、中国の6月消費者物価指数(CPI)が前年比「ゼロ」という「ディスインフレ」(インフレから抜けたが、デフレに陥っていない状態)に注目したのが、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミスト宮嶋貴之氏だ。
宮嶋氏はリポート「インフレが続く世界の中で中国はデフレに陥るのか?」(7月14日付)のなかでこう指摘した。
「世界の多くの国・地域では長引くインフレとの戦いが続いており、日本ですらCPIのヘッドラインは近年にない記録的な高さとなっている。こうした世界の中で際立つのが中国のCPIだ。最新の6月の前年比はなんと『ゼロ』%まで減速した。
世界経済が小康状態を保ち、かつ他の国・地域でインフレ傾向が続く足下では、中国の物価の伸びの弱さは目立つ。一部報道等では、中国が今後デフレ経済に陥るとの指摘もあるほどだ」
そして、ディスインフレが長引いた場合の中国経済への影響をこう予測する。
「まず、実体経済には実質金利の上昇を通じた下押し効果が続くと見込まれる。中国政府は断続的に利下げを実施しており、金融緩和策を維持している。にもかかわらず、足下ではCPIの減速によって実質金利は上昇している。実質的な金融引き締めが生じてしまっているということだ。実質金利上昇と不動産市況の停滞も重なり、足下では資金需要の伸びが資金供給の伸びを下回る異例の事態となっている」
ディスインフレの傾向が強まった場合に想定されるもう1つの懸念は、企業収益の悪化と株価の下押しだ。【図表1】は、中国企業の株価(上海総合指数)と利益(工業利益)、そして生産者物価指数(PPI)の関係を示したグラフだ。
これを見ると、2022年以降はPPIの伸びが低下するにつれ、利益や株価も低下する傾向にある。つまり、販売価格への転嫁が困難になることで、企業利益が圧迫されているとみられる。そこで、宮嶋氏はこう結んでいる。
「ディスインフレによる実質金利上昇と企業収益圧迫が強まれば、当然ながら設備投資などの需要が下押しされ、それがまたディスインフレ圧力を生むという悪循環が続く可能性がある。それが行き過ぎれば、最終的にはデフレにもなりうるだろう。
こうした悪循環を食い止めるべく、中国政府は2023年末までにさらなる利下げを実施する必要性を認識していると筆者(=宮嶋氏)はみている。どの程度積極的な利下げとなるかについては、7月の政治局会議の結果などから、中国政府の政策スタンスがどこまで測れるか注目したい」